「ホンマに行政は見て見ぬ振りです」
——西成だけでは一定数の患者を持っていても回らないのでしょうか。
「回りません。西成の地域にある病院は一部を除いて、不正を見て見ぬ振りをしています。JR大阪環状線の某駅前にある病院は野戦病院と言われています。4人部屋にベッドを詰め込んで10人部屋にしたり、8人部屋に20人押し込んだり。ホンマに行政は見て見ぬ振りです。なんせ行政側からしたらどんな病人でも引き取ってくれる病院ですから潰したくはないんです」
と、吉田さんは行政の怠慢を訴える。確かに、この地域だけの患者だけでは医療は回らないであろう。あいりん地区の人口は最盛期には3万人と言われたが、今はその数は半減している。全員が医療の世話になるわけではなく、その数は減る一方なので周囲に広がるのは自然の法則ともいえるであろう。
吉田さんが話すその病院は当然役所などと連携をしており、生活保護を受けている人間なども積極的に引き受けているという。患者の中には生活保護法などでも禁止されている借金をしている人間も多く入院しているために、生活保護費の支給日が振込の人間は月末に、手渡しの人間は月初めには取り立てが病院に来る風景も見慣れた光景だという。
その病院は、行旅病人なども当然積極的に引き受ける。中には行政の力でも身元が分からずに、ベッド脇の名札に“名無し”と書いてあることも多いという。
あいりん地区の医療問題は医療従事者も口をつむぐタブー
彼らが亡くなったら、当然無縁仏になり、“行旅死亡人”と呼称が変わり、それらに関わる費用、例えば火葬なども全て行旅病人が保護された自治体が面倒を見ることになる。その費用も当然税金で賄われているため、真面目に税金を納めている人間からすればやるせない問題であろう。
吉田さんは今、社会医療センターを離れているが、色々な情報が入る立場にいる。
つまり前述している通り、医療の世界からは離れていないのだ。
あいりん地区のことについては、仲間の看護師をはじめ誰しもが口をつぐむという。そのくらいこの地域の医療問題はタブーになっているのだ。
実際に筆者はいくつかの病院やクリニックに取材の協力をお願いした。電話で取材の許可は下りたのだが、実際に現地に足を運ぶと取材拒否や担当外の人間などが現れて、話をうやむやにされて取材にはならなかったことを最後に付け加えておく。