患者の食事さえも売買されていた

——その事実を医療側は知らなかったのか、それとも見て見ぬふりをしていたのでしょうか?

「私は本当に知りませんでした。特にショックで嫌だったのは、5、6階の病棟に入院している患者さんの食事なども売買されていた事実を知ったことです。本当に栄養を摂らなくてはいけない患者さんの治療が優先なのに、それを分かってくれないことがホンマに悲しかった」

その悪循環は、前述した通り今もこの地域で続いている。

深夜1時ごろから行われる“泥棒市”では、人気の高い睡眠薬などが多く売られている。向精神薬は一部を除いては中々道端には売っていない薬のひとつだ。

——緊急時のための社会医療センターだから2、3日分を処方していれば、それらの売買は防げたのでは?

「まずお金のない人たちはセンターを頼るので、診察して薬を処方するしかありません。不眠などの患者さんはあまり来ないのですが、保険証を持っていたり生活保護を受けている患者さんは社会医療センターを頼らずに内科や精神科などのクリニックに通い、睡眠薬・睡眠導入剤や向精神薬を処方されています。その中に、法規制されているにも関わらずいくつものクリニックに通っている人がいるんです。どこのクリニックがたくさん薬を処方する甘いクリニックなのかという情報は、すべて仲間内で共有しています」

確かに一部の西成のクリニックでは待合室に無料のジュースの自動販売機などを置き、歩ける患者の送迎をするなどの過剰なサービスで患者の囲い込みをしているのは事実だ。

また、患者が指定した人気の高い睡眠薬や睡眠導入剤などを言われるままに処方するクリニックも少なくない。

このような薬を求める人間に人気の高い睡眠導入剤は、1カ月以上待たないと処方されないという順番待ちまで存在している。

自分の患者の囲い込みにしか興味がない

——特定の睡眠導入剤や向精神薬に人気が集中しているのを、クリニック側は知っているのでしょうか?

「当然クリニックは知っていますが、それを止めることはしないで、診療報酬が高い向精神薬などをどんどん処方しています。医療機関の連携があれば、それらを多少は食い止めることも可能ですが、ここらの一部のクリニックは、自分の患者さんの囲い込みにしか興味はありません。よそに転院させる際に必ず必要な診療情報提供やそれらが書かれている医療カルテなども含めて、よほどのことがない限り情報は渡しません」

と語り、続けて

「当然生活保護受給者は、生活保護制度のひとつの医療保護で医療費は全額行政が負担するので、治療費はおろか処方される薬もタダです。それは本当に病気で悩んでいる人には必要な制度でしょうが、このようにいくつものクリニックに通い、不眠を訴えてそれらを過剰に処方されるのは問題やとは思います。当然今は法改正によって、薬価の安い後発医薬品のジェネリックなんやけどね。だけど、それにも抜け道があって、処方した医師が後発医薬品はダメという一文を入れれば、後発医薬品ではなく、正規の薬、つまり先発医薬品が処方されます」

と、吉田さんはその背景を説明する。