国民健康保険無加入の人にも無料で診察

「この地域はよそから逃げてきた人も多く、会社勤めをしていなくて社会保険や住民登録もせず国民健康保険に入っていない人が多いやないですか。そんな人からはお金を取らずに無料で診察を行って、ホンマに食費や生活費が無い人には、何の担保も取らずに信用だけでお金を貸していた時代もありました」

当然貸し付けは社会医療センターと患者との信頼関係で行われ、返せなくても以後の診察拒否や厳しい取り立ても行わない。これが1つ目の考え方だ。

2つ目に、医療の相談業務など、普段不規則な生活を送っていたあいりん地区の人間に対して生活の改善などの指導をしているという。

「この地域の人たちは、明日のことも考えずにお金が入ったらお酒を飲んだりする人がホンマに多くて、酒で命を落とす人がたくさんいました。そんな人たちに、親身になって生活の改善を地域の福祉士さんやボランティアなどの人たちと行っていました」

3つ目は、この地域の調査だ。

一時期、この地域の“結核”の感染率はアフリカで流行していた国よりも高かった。これらの病気などを研究し、あいりん地区の患者に注意喚起をすることで患者数が減ったのも、社会医療センターの努力の賜物だ。

「当然行政の協力がないとできませんが、私もマスクをしてあいりん地区にある三角公園や地域に歩いて入って、咳き込んでいる人がいたら社会医療センターに連れて行って検査を勧めて受けさせるなどホンマに努力しました」

しかし、吉田さんはこの社会医療センター勤務を経て、この地域でいくつもの問題点を見つけたという。それは自分だけが努力をしても決して解決できない問題であり、本人がこの地域の医療から離れる大きな理由のひとつとなったきっかけでもあったのだ。

自転車にかごをくくりつけてゆっくりと街を行く、シニア男性
写真=iStock.com/groveb
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横行する薬の横流し

——問題点とは一体何なのでしょうか?

「いくつもあったのですが、特に薬の横流しがかなりの数行われていたことが問題だと思います。今もその悪しき風習が残っているとちゃいますか」

と、吉田さんは語る。吉田さんが勤務していた時代にも、4階の社会医療センターで薬を処方したにも関わらず、同じ建物内である“あいりん総合センター”内で売買している事例が多かったと話す。

主に売買されているのは睡眠薬や睡眠導入剤が中心だが、本当に身体を壊している人間が多いために、胃薬、肝臓などを中心とした内臓系、高血圧を下げる薬や湿布、ほかにも様々な薬が入っている栄養剤の点滴なども病棟内から持ち出されて建物内で売買されていたのを見たと話す。

しかもそれらは、あいりん総合センター内の2階など、仕事にあぶれた人たちが集まる場所で堂々と売買をされていた。