「帰って来れない飯場」に人を送る人夫出し

帰って来れない飯場というのには説明が必要であろう。

一例を挙げると、山奥の現場に連れて行き、工事が終わるまで人との面会はおろか、山の下の街までも下りられないような嘘みたいな現場である。

一時期に比べてそのような現場は少なくなったが、未だに西成の人夫出しはこのような現場に人を斡旋しているのだ。

——そういったあくどい人間の見分け方ってありますか? 車に貼ってある条件と違うというのは。

「ぼくは経験したことないから分からんね。文句を言っても山の中に放り出されるし、気づいたときには遅いんとちゃいますかね」

ダムに埋められた労働者

ここで話題を変えて、西成で多く囁かれている都市伝説に話を向けた。

——都市伝説ですけど、ダムに工事で死んだ人間が埋められるとかいうじゃないですか。あれって実話ですか?

「実話かどうかは分からないけど、1人は実際に知っているよ。山奥の飯場で使い物にならんようになったら埋めてしまうという。まあそこはその事件が発覚してパクられたけどね。それ以外でもあるんちゃうかな。この地域で住民登録している人間は、ホンマ行政は生活保護を受けている人間しかカウントしとらんやろ。だから人が消えたって“あ、飛んだんや”くらいしか思わへんからな」

この地域の住民はほとんどが独身だ。所帯を持っているのは市営アパートや山王周辺のアパートなどに住んでいるほんの一握りの人間だけであろう。

また、身分証がなくてもドヤに長期宿泊も可能であり、よほど密接な関係をドヤの管理人や近隣住民と築いていなければ、いきなりいなくなっても捜索願を出されることは100パーセントないと言い切れる街である。