中国依存脱却は「自由で開かれたインド太平洋」がカギ

これらのリスクは、中国が日本の貿易総額の約2割を占める最大の貿易相手国であることで、増幅されている。リスクを減らすためには、まずは貿易や対外投資における中国依存を減らすべきだ。

ただし、生産拠点の国内回帰では、国内の大災害によるサプライチェーンの途絶に対応できず、必ずしもリスクを下げることにならない。取引相手の多様化こそがリスクを軽減する。日本はこれまで貿易・投資の関係が必ずしも十分でなかったASEAN後発国やインドをはじめとする南アジア、アフリカ諸国などにも生産拠点や輸出を拡充していくべきである。

そのためには、日本政府が主導する「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想をさらに進展させることが1つの方法だ。FOIPは、環太平洋地域、環インド洋地域(アフリカ東海岸を含む)で、民主主義と法の支配、市場経済、自由貿易などに基づく平和と繁栄を目指すもので、米豪印にも支持されている。バイデン新政権も、これを支持し続けることは間違いない。

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経済と安全保障を切り分けてつきあう

とは言え、中国は現在世界の生産量の約2割を占めている隣国である。中国依存を減らしながらも、相当程度の経済的なつながりを保つことも日本経済にとっては不可欠だ。そのためには、経済と安全保障を切り分けるための国際ルールを構築し、どのような貿易や投資、技術移転が安全保障を理由として規制されうるのかを、できるだけ明確にすることだ。

この点では、バイデン新政権はトランプ現政権よりもはるかに期待が持てる。バイデン新政権は国際協調の重視をはっきりさせているからだ。トランプ大統領は、WTO(世界貿易機関)の紛争解決手続きに対して強い不満を抱き、その上級委員会を機能停止に追い込んだ。オバマ前政権下で署名されたTPP、気候変動に関するパリ協定、WHO(世界保健機関)などの国際的枠組みからは実際に離脱している。バイデン新政権では、WTOの機能を回復させ、WHOやパリ協定に復帰することが期待されている。

経済と安全保障を切り分ける国際ルールはすでにWTOで規定されているが、条文があいまいなために、広い解釈が可能だ。しかもこれまでは、安全保障を理由とした貿易規制はWTOの紛争解決手続きではほとんど審査されていない。バイデン新政権下でWTOの紛争解決手続きが再開されることで、近年拡大している安全保障を理由とした貿易規制がどこまで認められるかについてのルールが明確になっていく可能性がある。

三菱重工スペースジェット開発凍結の教訓

うまく経済と安全保障を切り分けられたとしても、ハイテク分野では米中の分断が続くだろう。中国のハイテク企業がアメリカ経済から分断されると、世界的にイノベーションが停滞することが予想される。中国のハイテク企業は、すでに5G、AI(人工知能)、フィンテックなど様々な分野で世界の最先端を走っているからだ。アメリカの対中政策には、中国企業に対する技術移転や中国の企業や大学との共同研究に対する規制も含まれており、その影響は大きい。