値嵩株と日経225先物で利得狙う海外投資家

11月に入ると株式相場の潮目が変わった。3日の米国の大統領選挙の終了によって先行きのリスクが低下した。そのうえ、5日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて当面は低金利(カネ余り)環境が続くことが確認され、多くの投資家がリスクテイクに積極的になった。さらに、ワクチン開発への期待が高まり、リスクテイクが勢いづいた。

ワクチンは世界経済が新型コロナウイルスを克服するために欠かせない。米欧の大手製薬企業の治験で有効な結果が得られたことを好感し、主要投資家は先回り的に世界経済が回復に向かうとの期待を強めた。結果、株価上昇が顕著だったIT先端銘柄を売り、コロナショックに直撃された在来産業(エネルギーや航空など)を購入する“セクター・ローテーション”が起きた。

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その一環として海外投資家は、有力ITプラットフォーマー不在であり世界を代表する“バリュー(出遅れ)株”とみなした日本株を買い戻した。買うから上がる、上がるから買うという強気心理が連鎖し、国内でも先行きに強気な投資家が増えた。

11月初旬から第2週までの間に、海外投資家は日経225先物を約8900億円買い越した。買い越し額は、TOPIX先物を上回る。その背景には、日経平均株価の算出方法が大きく影響している。

日経平均株価はわが国を代表する225社の株価の単純平均によって算出されている。価格の単純平均であるため、ファーストリテイリングや東京エレクトロンなどの“値嵩株(1株当たりの株価が高い株)”の値動きがインデックス全体の動きに大きく影響する。

世界の株式市場で一部投資家の買い(売り)が、インデックス全体の上げ(下げ)に影響を与えることができるのは、日本以外に見当たらないと指摘するベテランファンドマネジャーもいる。

その点に着目して海外投資家は値嵩株を買い、日経225先物も買い上げることによって、相場全体の押し上げ圧力を高め、利得を狙った。そうした動きにつられるようにして、他の投資家が相場に参戦し、日経平均株価の上昇が顕著になった。それは行動経済学の理論にある“バンドワゴン効果”の良い例だ。

世界全体が免疫を獲得するには時間がかかる

海外投資家が一部の値嵩株と日経225先物に注目した取引を進めた結果、わが国の株式市場はゆがみ始めた。どういうことかといえば、特定の銘柄に買いが集中し、一部銘柄の過熱感が高まっている。例えば11月24日の東京株式市場では、ファーストリテイリングと東京エレクトロンの2銘柄だけで日経平均株価を約132円押し上げた。

当面、そうした状況が続く可能性はある。世界経済全体で低金利環境は続く。反対に言えば、世界的に財政支出が増える中で、どの国も金利上昇は避けたい。国債の流通利回り低下によって、投資家(特に、機関投資家)は相対的に期待収益率の高い株式に資金を配分せざるを得ない。

さらに、米国のバイデン次期大統領が政権引き継ぎに取り掛かり始めたことによって先行き不透明感は追加的に低下した。早ければ年内に米国でワクチン接種が始まるとの期待もリスクテイクを促す。押し目があれば短期目線で買いを入れたい機関投資家は多く、国内外で目先の株価はサポートされるだろう。

ただし、世界経済を取り巻く不確定要素は増大傾向だ。ワクチン開発と供給には不安な部分がある。特に、新興国へのワクチン供給体制がどうなるかは見通しづらい。世界全体が免疫を獲得するには時間がかかるだろう。