「作るのが間に合わない」の声を受けて開発

このブランドから濃縮タイプを出したのは、家庭訪問での「気づき」があった。

「消費者のご家庭の冷蔵庫を見せていただくと、プラスチック容器に抽出した麦茶が何本も入っていました。『夏は家族で毎日3~4リットルぐらい麦茶を飲む』『食事の時はもちろん、夫の会社用、子どもの学校用の水筒ですぐなくなる』という声がありました。

煮出しや水出しだと『抽出して飲むまで2時間以上かかり、作るのが間に合わない』といった声も耳にし、対応できる商品を考えるようになったのです」(高原氏)

同社に限らず、メーカーが行う「消費者の家庭訪問」は、実際の消費者のリアルな生活シーンを見せてもらい、商品開発のヒントとするもの。地に足のついた発想にもつながる。

濃さが調節できて、手が汚れない

2019年に発売した「濃縮缶の麦茶」は、大量消費する家庭を中心に支持を受けた。

撮影=プレジデントオンライン編集部
サントリー食品ジャパン事業本部 ブランド開発事業部課長の高原令奈氏

「簡便性があり、ペットボトルに比べてスペースを取らない点を訴求し、それもご支持いただきました。消費者の方からは『濃さを調節できるので好きな味が作れる』『水出し・煮出しのようにティーバッグを取り出さないのがいい』という声もありました」

GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶 濃縮タイプ(写真提供=サントリー食品)

有名ユーチューバ―のHIKAKINさんがまずは原液を飲み、次に割って飲むシーンを動画で発信したのもネットで話題になった。

勢いに乗って2020年4月7日には同社の看板ブランド「伊右衛門」「サントリー烏龍茶」「DAKARAミネラル」でも濃縮缶を出した。

時期は前後するが、競合する伊藤園も2020年3月2日に主力ブランド「お~いお茶」のほか、「健康ミネラルむぎ茶」「ウーロン茶」「Relaxジャスミンティー」(商品パッケージには希釈用。1本で1~2L分と表示)をラインナップで投入。

飲料メーカーの大手2社が看板ブランドで参入したことで濃縮市場は活性化した。

“1センチ残し”やゴミ出し…麦茶という「見えない家事」

コロナ禍での生活を強いられた今年の夏は、さらに事情が変わった。

「これまでだったら園側が用意してくれた幼稚園や保育園でも『飲み物はご自宅から持参してください』という要望も多く、ご家庭での飲用量がさらに増えました」

そうなると水出しや煮出しでは、消費に追いつかない家庭も多かっただろう。自分で作らずに飲むだけのお父さんの中には“アリバイ作り”のように「1センチだけ残しておく」といった、苦笑いするような家庭のシーンも聞いた。