なにげないことでも、実は高度で複雑

人間やAIが言われたことをうまく実行できるかどうかは、このような「付随する仕事」や「気をつけるべき点」を適切に発見できるかによります。こういったことを発見するには、常識や文脈についての考慮はもちろん、指示をしてくる人がそもそも何を念頭に置き、何を目的にして指示をしてくるのかを知ることが重要です。

「コップに水を入れて」にしても、人間やペットが飲むためなのか、鉢植えの花に水をやるためなのか、何らかの掃除に使うためなのか、お仏壇にお供えするためなのかなどによって、「付随する仕事」や「気をつけるべき点」も変わってきます。

川添愛『ヒトの言葉 機械の言葉』(角川新書)

もし、人間や動物が飲むための水であれば、コップの汚れは気にしなければなりません。しかし、鉢植えへの水やりや掃除のためであれば、そこまで気にしなくても良いかもしれません。

また、指示をしてくる人が非常に急いでいる場合は、コップを念入りに洗っている時間はないかもしれません。そのときも、コップを洗わないか、急いで洗うか、(指示した人の意図を一部無視して)別のきれいなコップを使うか、(指示した人が急いでいるのを無視して)自分の気のすむまでじっくり洗うかといった、さまざまな選択肢が出てきます。

いずれにしても、私たちが他人の指示に従って何かを行う際には、実はこういった膨大な判断が関わっています。

そういった判断は、指示をしてきた人や自分が何を優先すべきと考えているか、何に気をつけるべきと考えているかに基づいてなされる必要がありますが、私たち人間はそういった判断をたいてい瞬時に行っているのです。

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