多くの人が、元の世界に戻りたいと思っている

非常に多くの人々が、元の世界に戻りたいという切実な願いを抱いて今回の危機を脱するだろう。その心情は理解できる。監視されたり、子供扱いされたりすることのなかった世界に戻りたいと願う人は多いはずだ。

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失業した人、商売が台無しになった人、作業場を失った人は、危機以前の暮らしと生活水準を取り戻したいと渇望するに違いない。彼らは憧れの車を買いたがるだろう。旅行好きの人は、その喜びを再発見したいと思い、再び世界各地を旅したいと望むだろう。

多くの企業経営者は、自分たちの企業活動に影響を与えたパニックはもう終わったと安堵し、危機以前の生産量と利益率を回復させようとするだろう(だが、彼らには新たな従業員を雇ったり、これまでとは別のモノを違ったやり方でつくったりする考えはない)。

多くの政治指導者は、危機以前の支持率を取り戻そうとするだろう。その一方で、緊急時だからこそ得られたと思われる暫定的な権力を保持することも試みるだろう。

「闘う民主主義」を生み出さなければ、民主主義は消滅する

それとは逆に、ノスタルジーを抱いてこの自宅待機から抜け出す人々もいるだろう。それは、隔離中に自分自身のリズムで働き、孤独を慈しみながら過ごし、あわただしい生活のなかに生まれたこの休息に価値を認めた人々だ。今回の危機で収入や年金が見直されることはなかったのだから、彼らは恵まれている。

一方、自宅隔離を地獄のように過ごした多くの人々は、これまでとは異なる会話、友人、空間、愛情を見出したいと願うだろう。

多くの職業は存在意義を失い、非情にも突如として失業者になった数千万人は自己改造を強いられるだろう。多くの国ではあまりに影響が大きく、抜本的な改革を断行しない限り、危機以前の生活水準を短期間で取り戻すことなどとうてい望めない状態になるだろう。多くの民主主義は、私が後ほど述べる「闘う民主主義」を生み出さない限り、今回の苦難によって徹底的に痛めつけられて消滅するかもしれない。

元の世界に戻りたいと願うのは、次に人類を襲う大きな災難からさらに深刻な影響を被ることであり、次のパンデミックへの準備、そして、気候変動がもたらす次の大惨事への準備を怠ることを意味する。これは、民主主義への死刑宣告に等しい。もしそうなれば、民主主義は、その原則と実践に対する新たな攻撃から立ち直れないだろう。

なぜなら、パンデミックなど、今後もさまざまな性質の出来事が起こり得るからだ。今回と同規模の、そして、さらに深刻な衝撃に襲われる恐れがある。しかも、次々に。それらの出来事により、われわれの経済、自由、文明は崩壊するかもしれない。