また国際化が進む市場の中でモノを売っていくために非常に重要なのが、実は日本人らしさ、和の心を確立することである。20代の終わりに研修のためバーニーズニューヨークに出向いていた頃、それを痛感した。日本人固有の文化は戦後のグローバリズムによって衰退したかのように言われるが、脈々と受け継がれてきた精神性や美意識は誰の中にも必ずある。それを再認識するためにも『武士道』『陰翳礼讃』『若きサムライのために』あたりはぜひ読んでおきたい。
『若きサムライのために』の三島由紀夫は時代が生んだ天才の一人であり、時に狂気をはらむ言葉の数々には圧倒されるが、同様の資質を持つ天才を現代に見出すとしたら、ビートたけしの名が挙げられるだろう。
『だから私は嫌われる』はバブル期に書かれたにもかかわらず、まるでその崩壊を予見したかのようなシニカルな視線に満ちている。「物は高級、人は低級志向」など、ハッとする文言も多い。
リーマン・ブラザーズが破綻して以来、企業の倒産や雇用縮小が相次いでいる。個人が会社に帰属する時代はすでに終わったと言っていい。営業の基本は会社ではなく「自分」を売り込み、買ってもらうことだが、会社が倒れるこの時代にあって、倒れない自分をつくることが、ビジネスマンには必要だと思う。
自著を挙げるのは面はゆいが『自分ブランドの教科書』は、タイトル通り自分をブランド化することの重要性について書いたものである。モノが飽和した時代にお客が何を望んでいるかを察するには、小手先のテクニックに頼ってもだめで、結局は自分を磨いて相手の立場を考える力を養うほかにないと思ったからだ。
そのためには個人個人が経営者意識を持つことも、非常に大切である。そこで『道をひらく』『ドラッカー365の金言』『朝令暮改の発想』『人を動かす』などが参考になる。とくに『朝令暮改の発想』は、現場を経験した経営者ならではの突破力、発想法に学ぶところが多い。
デザインの現場からの声を綴った川崎和男のエッセイ集『プラトンのオルゴール』も、喧嘩師のごとく現場で一人奮闘し続けるその姿勢に感じ入るものがある。
仕事の付き合いでも、自分なりのフィロソフィーと、人間への深い洞察力を持っている人には惹かれるものだ。それを養うための手がかりを本の中に求めるなら、『その日のまえに』『流星ワゴン』を勧めたい。人間の心理を濃やかに描いたこれらの小説は、読むたびホッとさせられる。
モノも情報も飽和を迎えたこの時代、営業の仕事に求められるのは、武士道にも通じる間合いでお客の心を察知し、応えていく能力である。そのためには「人」への理解が不可欠であることを、もう一度強調しておきたい。