「足るを知る」の日本、「もっと上へ」の中国
【日本と中国は正反対】その3:美徳
美徳についてもじつに対照的だ。日本では「足るを知る」が美徳とされる傾向にある。「自分にはこれでじゅうぶん」「私にはもったいない」「もう現状で満足だ」。現状のよさに気づき、分相応の現状に満足するのがよしとされやすい。
反対に、中国では「足るを知らず」の上昇志向こそが大切にされている。「もっと上へ」「もっと豊かに、便利に」「より良い暮らしを」。現状に甘んじず、1つの目標をクリアしたら今度はさらに上の目標に向けて走り出す。足るを知らないために、身の程知らずや、根拠のない自信にあふれた中国人も少なくない。しかし、だからこそ、成り上がっていく成功者が出てくる。どちらがベンチャーやイノベーションを生みだしやすいか、一目瞭然である。
【日本と中国は正反対】その4:マーケティング
こうした教えや美徳は、人の価値観を形成し、人が主体かつ対象となるマーケティングにも大きな影響を与えていく。日本のマーケティングは、前例主義の積み上げ型といえる。アイデア出しも意思決定も、開発もプロモーションも、前例にのっとったうえで積み上げられる。よほどの理由と確信を持てない限りは、これまでの前例から逸脱した、リスクが高く冒険的な手は打たない。
対照的に、中国のマーケティングは、前例更新主義の飛躍型だ。「前例・通例ではこうしている」という情報を踏まえたうえで、より速く新しい方法を試していく。リスクが高く、外れも大きいが、その分当たりも大きい。
アメリカと比較するより、中国と比較したほうがいい
【日本と中国は正反対】その5:イノベーション
こうしたマーケティングの傾向は、成果であるイノベーションを特徴づけていく。前例に基づき積み上げ型のマーケティングを行う日本では、既存プロダクトの延長線上で、コツコツと改善・改良が重ねられる。時間をかけて、よりよいプロダクトを目指す「持続的イノベーション」が生みだされやすい。
対して、中国では飛躍型のマーケティングに基づき、既存の延長線上から外れた、新しく挑戦的なプロダクトがつくられる。リリース当初は、「品質は最低限だが、新しくておもしろい」プロダクトが、市場の反応を受けて、一気に性能を向上させ、既存ライバルを倒していく「破壊的イノベーション」が生みだされやすい。
これまで、ビジネスをはじめ多くの面で、日本はアメリカを比較対象としてきた。しかし、中国と比較することによってこそ日本の価値と課題はより鮮明に浮かび上がってくる(図参照)。日本と中国は、対照的で極端な特徴を持っているからこそ、比較することで両者の価値と課題が際立つし、補完関係を築いて共存共栄していく未来を目指すことができる。