なぜ中国からは世界的なベンチャーが次々誕生するのか。『リープ・マーケティング』(イースト・プレス)で中国ベンチャーのマーケティング戦略を解説した、高千穂大学の永井竜之介准教授は「日本のマーケティングが積み上げ型なのに対して、中国は飛躍型。だから破壊的イノベーションが生まれる」という――。
上海の街並み
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「世界トップの経済力=アメリカ」と思っているのは3カ国だけ

いま、中国ビジネスに注目するのは、世界のマーケターの常識といっても過言ではない。「中国に注目すべき」というよりも、「注目して当然」で、それをできていない日本が異常といった方が適切だろう。

2020年10月、アメリカのピュー研究所が発表した報告書(※1)によれば、「世界トップの経済力を持つ国はどこか」という質問を14カ国(※2)で行ったところ、じつに11カ国で「中国」が最多回答になった。「アメリカ」が最多回答になったのは、アメリカ自身と、韓国、そして日本のわずか3カ国である。カナダやオーストラリア、欧州各国では、大差をつけてアメリカよりも中国が回答されており、中国ビジネスが世界をリードする存在としてすでに認識されている結果が明るみに出た。

※1:Silver et al. 2020/『Unfavorable Views of China Reach Historic Highs in Many Countries』
※2:カナダ、アメリカ、イタリア、ドイツ、ベルギー、オランダ、スペイン、フランス、スウェーデン、イギリス、デンマーク、オーストラリア、日本、韓国の14カ国。

2019年春、アメリカのハーバード・ビジネススクールが発行する研究誌に掲載された論文(※3)では、次のような主張が展開されている。

「これまで欧米のマーケティングは万能で、世界中のあらゆるビジネスに当てはめられると考えられてきた。しかし、中国のマーケティングは、それが誤りだと確信させるものである。中国は、欧米のマーケティングよりも速く、安く、そして効果的な独自のマーケティングを生みだしている。固定概念に染まった欧米のマーケターは、中国のマーケティングからもっと学ぶ必要がある」

※3:Whitler 2019/「What Western Marketers Can Learn from China」『Harvard Business Review 2019 May-June』

日本人の中国イメージは古いままだ

アメリカのマーケターの間では、中国のマーケティングを分析し、長所を学ぶ動きが始まっている。それはちょうど1980年代の日本のバブル期に、アメリカが日本企業から学ぼうとした構図そのままだ。当時、日本の自動車や家電のメーカーは「ジャパン・アズ・ナンバー1」と称され、注目を集めた。その対象は、2020年代から本格的に中国のITベンチャーになる。

中国はもはや、安価な労働力を提供するだけの「世界の工場」ではない。キャッシュレス、モバイルオーダー、AIによる画像識別・顔認証、IoT家電、スマートシティ、ドローン、無人運転、遠隔医療、ニューリテールなど、世界最先端のデジタル・イノベーションを次々に生みだすベンチャー大国。これが中国の現在地である。アメリカはいち早く中国に対する評価を更新し、中国ベンチャーから学ぼうとしている。

しかし、多くの日本企業と日本人は、安かろう悪かろうの「メイド・イン・チャイナ」で、中国はモノもサービスも日本から数十年遅れている、という時代遅れの固定概念に支配されたままだ。中国ビジネスの飛躍を耳にしても、「中国は特殊だから」「どうせすぐに終わる」と、もう20年近く目をそらしつづけてきた。世界でもっとも中国に注目できていないのが、過去のイメージにとらわれた日本である。

アメリカが中国から学び、中国のマーケティングの長所を取り入れる姿を見て、「アメリカに認められたなら本物だ」と観念し、数年遅れで中国から学ぼうとするのではあまりに遅すぎる。