「リクを布団の上に放り投げてしまったんです」
「2歳半頃に話をしないなとはっきり分かるようになりました。その頃から、夜は1時間おきに泣いて起きるんです。スマートフォンの動画を見せたり、ミルクを飲ませたり、一生懸命あやしたりして……ようやく寝たかなと思うと、また1時間後に泣いて起きるんです。それが毎晩毎晩で、延々と続くんです。その頃、私は臨月で下の子がお腹にいて、もういっぱい、いっぱいだったんです」
「それはきついですね」
「私、もう限界みたいになってしまったんです」
「臨月でその状態だったら、ちょっと耐えられないですね」
「そして私……リクを布団の上に放り投げてしまったんです。それで、これはまずいと思いました。このままじゃあ、虐待になっちゃうって。それで保健センターに電話をしたんです」
「ああ、自分からSOSを出したんですね」
「保健師さんが訪ねてきていろいろ話をしたんです。これは単なる夜泣きじゃないって。言葉が出ないことも話したんです。そうしたら簡単な検査もやってくれました。箱を三つ並べて一つに犬のおもちゃを保健師さんが入れるんです。そしてリクに『ワンワンはどこに入っている?』って聞くんです。でもリクは三つの箱を全部ひっくり返してしまって、ちゃんと答えられないんです。保健師さんは、リクは自閉症じゃないかって。私は半信半疑でした」
「イライラしてあんなことをして、ごめんなさい」
「それで専門施設を受診したんですか?」
「保健師さんから最初に紹介されたのが、福祉施設の千葉市桜木園です。そこの先生が、言葉が出ないのは聴力に問題があるか言語障害のどちらかだから、千葉市療育センターを紹介しますって。療育センターで聴力の検査をしたんですけど、異常はありませんでした。そして療育センターの先生から、お子さんは自閉症ですって。知的障害もあるでしょうと言われました」
「そうだったんですね。それはつらかったですね」
「私、さすがにショックで泣きました。気づいてあげられなくて……寝ないことにイライラしてあんなことをして、ごめんなさいってリクに謝りました」
「それから療育が始まったんですね」
「そうなんです。療育センターの先生に紹介してもらいました」
「……分かりました。療育を進める中で何か相談ごとがあれば言ってきてください」
自閉症の主治医は療育センターになりますから、私はリク君が風邪などで受診したときに見守ることしかできません。だから、身体的なケアについてはできるだけ役に立とうと考えました。また、療育センターにわざわざ行く程ではない困りごとなら、うちに来て欲しいと思いました。その日の健診はそれで終わりました。