税務申告を簡素化する動きも進んでいる

デジタル・ガバメントを構築するには、国民のほぼ全員がマイナンバーカードを取得しマイナポータルを利用することが大前提となる。政府はこれまで、マイナポイントの付与や健康保険証との一体化などの促進策を打ち出しているが、2020年9月1日時点でいまだ国民の20%程度しか普及していない(総務省調べ)。

カード取得が普及しない理由の一つは、取得メリットが少ないことだ。2021年3月からはじまる健康保険証との統合は国民にとって大きなメリットだが、医療費控除など税務申告を簡素にできるようにすることも必要だ。

実はこの面では大きな進展がみられる。来年の確定申告に向けて、e-Taxと連携しつつ、医療費控除、生命保険料控除などの還付申告や、個人事業者の申告を簡単にできるようにする準備が進みつつある。

具体的には、本年10月から、生命保険料控除証明書などを、自らのマイナポータルに電子的に取り込むサービスが開始される。自分が働く会社が発行する給与所得の源泉徴収票、住宅ローンの残高証明書なども電子的に入手が可能となる。これらの情報はe-Taxに自動転記できるので、税務申告が極めて簡単になる。

最大の課題はプライバシーへの配慮

筆者が考える最大の普及策は、マイナポータルを、年金や児童手当など公的な入金(収入)、各種保険料や納税などの出金(支出)の管理に活用できるようにすること、将来的には給与(収入)や消費(支出)も管理できる家計簿にすることだ。そうなればわれわれは毎日ポータルを開くことになる。

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最大の課題は、国民のプライバシーに対する不安や懸念にどう対応するかだ。この問題は、国民の政府への信頼と深く関連している。多くの欧州諸国では、「番号は住所と同じで、プライバシーではない」と認識されており、とりわけ北欧では個人の所得情報を誰もが閲覧することができる。背景には国民の国家への信頼がある。

まずは、個人情報の保護を徹底するために、プライバシーの問題が生じたような場合にそなえて、個人情報保護委員会の権限強化を検討すべきだ。

国民の信頼を短期間で回復させることは容易ではない。オランダは、当初納税者番号として導入された番号制度を、20年かけて国民的な議論を行いつつその使途を拡大し、市民サービス番号に変えデジタル・ガバメントを作ることに成功した。時間をかけてコンセンサスを得ていく方式は、オランダの干拓事業になぞらえて、ポルダー(干拓)モデルと呼ばれている。わが国でも大いに参考にすべきだ。

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