自分名義のほかに妻名義でも給付金を申請

「私の名義での給付金申請については、まったくやましいところはありません。しかし、私は妻の名義でも100万円、持続化給付金を申請しているんです」

経済産業省のホームページ(2020年6月29日時点)によると、持続化給付金の対象者となるのは事業収入を得ている法人・個人となっている。妻とともに居酒屋を切り盛りしているものの、事業主はあくまで野中さん本人だ。ではなぜ妻の名義で持続化給付金を申請することができたのか。

「家族経営の小規模飲食店のほとんどがそうだと思いますが、妻には給与というものを払ったことがありません。というより、店の利益をそのまま家計に入れて妻が管理し、私が毎月小遣いをもらうという形です。ただ、確定申告の際には形式的に個人事業主である私が専従者控除の上限の86万円を妻に支払っていることにしていました。

専従者である妻は事業者ではありませんから、持続化給付金の対象ではありません。しかし、今年は新型コロナの影響で前年分の確定申告の期限が1カ月延長され、さらに期限を過ぎてもペナルティが課せられないことになったのもあり、5月に入っても申告していなかったんです。

そこで私は悪知恵を働かせてしまった。『妻を専従者ではなく、外注スタッフとして業務委託していることにしてしまえば、妻は個人事業主になるのでは』と。そこで私は妻に外注費として100万円ちょっとを支払った体で確定申告書を作成し、妻の確定申告ではそれを事業収入として計上したんです」

知り合いの税理士に相談したところ…

「念のため、確定申告書の提出前に知り合いの税理士に相談したところ、『一緒に暮らしている配偶者に支払った外注費は経費にできない』と指摘され、一瞬躊躇しました。さらに妻の(架空の)事業収入も課税対象となりますが、それでも追加で支払うことになる納税額は100万円に比べたらたいしたことない金額だったので、私の名義のものと一緒に、白色申告したんです。もし税務署職員に妻の業務内容について聞かれたら『調理業務を委託している』と答えるつもりでしたが、特に何も言われず受理されました」

税務署の窓口に記入済みの確定申告書を持参して提出した場合、収受印が押された控えがその場で手渡される。そして持続化給付金の申請には、その一部である「確定申告書第一表の控え」が必要となる。

これに加えて提出を求められるのが、今年分の対象月の売上台帳だ。持続化給付金の計算方法は、前年同期比で売上が50%以上減となっている月のうち、任意のひと月を「対象月」といい、その月の売上に12をかけ、前年の年間事業収入から引くというものだ。

ただし、白色申告の個人事業主は、確定申告書で月次の事業売上を確認できないという事情から、前年の月平均の売上から50%以上減となっている月を対象月として計算することになる。こうした白色申告の個人事業者に対する特別ルールは、持続化給付金の公式ホームページでも当初から説明されていた。ところが、6月中頃までは、確定申告の青白にかかわらず個人事業者用の申請フォームは単一だったようだ。