都内で居酒屋を経営する野中啓二さん(仮名・45歳)は、新型コロナウイルス対策の持続化給付金として200万円の受給を申請した。このうち100万円は野中さんの名義だが、残りの100万円は「業務委託」とした妻の名義だという。取材したライターが「限りなくクロと思われる方法」と振り返る手口とは——。
※本稿は、奥窪優木『ルポ 新型コロナ詐欺 経済対策200兆円に巣食う正体』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
限りなくクロと思われる方法で申請した確信犯
「書類の作成は全部自力でやりましたが、意外と簡単でしたね。5月25日に申請して、2週間ちょっとで給付されていました。うちは個人事業主で、100万円満額が給付されました」
給付の遅れも取り沙汰される「持続化給付金」だが、昼飲みの聖地としても知られる都内の下町で居酒屋を経営する野中啓二さん(仮名・45歳)のもとには、ほぼ目安通りの日数で無事着金していた。
持続化給付金とは、感染症拡大による営業自粛等で特に大きな影響を受けている中小・零細企業やフリーランスを含む個人事業者を支援する給付金のことである。前年と今年の同じ月を比べたとき、売上が50%以上減少している事業者を対象に、中小法人等の法人は200万円、フリーランスを含む個人事業者は100万円を上限に現金を給付する、政府肝入りの政策の一つだ。
それでも、彼の表情は晴れない。外出自粛と都から要請された時短営業で、4月と5月の店の売上は前年の3分の1に落ち込み、感染拡大の第2波到来も危惧されるなか、100万円ほどの一時金では不安は払しょくされないのも当然だろう。そうも思ったが、彼の不安は別のところにあった。
「持続化給付金の不正受給ってバレたらどうなるんですか? もうバレた人はいますかね?」
開店前の仕込みの手を止めると、カウンター越しに矢継ぎ早の“逆質問”をしてきた。実は野中さんは、限りなくクロと思われる方法で持続化給付金を申請していたのだった。