「事業者の業務継続を支える」とは名ばかりの現実
「通常、給付までには2週間程度いただいております。恐れ入りますがもう少々お待ちいただけますでしょうか」
持続化給付金の申請者からの問い合わせに対して、相手が申請から2週間未満であれば、私は条件反射のようにこの決まり文句を唱えていました。各人のデータにきちんと当たっての進捗確認など、しません。なぜなら研修でそう指導されていたからです。業務中、手元に置いてあるトークマニュアルにも、はっきりそう図解されています。
持続化給付金とは、「感染症拡大により、営業自粛等により特に大きな影響を受ける事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える給付金を給付」(公式ホームページより)する制度です。今年5月1日から来年1月15日まで申請を受け付けていて、給付条件を満たせば個人事業者で最大100万円、中小法人等なら最大200万円が支給されます。
私はこの夏から数カ月、『持続化給付金事業コールセンター』に勤務していました。ところが、コロナ禍に苦しむ相談者との接点となる場でまず最初に直面したのは、「事業者の業務継続を支える」とは名ばかりの現実だったのです。
給付金事務局やコールセンターの側の都合やルールに自ら縛られ、手助けを必要としている事業者をおざなりに扱う場面に何度も遭遇しました。正直に言えば、私自身がそうしてしまったこともあります……。
税金を原資とする事業の内幕を、少しでも多くの人に知っていただくべきではないか――。私はそう考えました。
これからの数回、今も胸の内に深く刻まれている記憶と、折に触れて残してきた記録を頼りに、持続化給付金コールセンターでの経験を手記という形で綴っていけたらと思います。
自己申告で記載したプロフィールだけで合格
これまで私は、オペレーターとしていくつかの業種のコールセンターを渡り歩いてきました。
直近の仕事がこの春で契約満了し、次の仕事を探していたところ、『申請手続きについてのお問い合わせ対応』という募集が目にとまりました。
勤務地は自宅からさほど遠くない渋谷で、時給もまあまあ。応募資格はコールセンターでの勤務経験だけで、就業は数カ月という期間限定契約。面接はなく、書類選考のみで決定するとあります。
さっそく応募してみると、その日のうちに派遣会社から採用を告げられました。登録フォームに自己申告で記載したプロフィールだけで合格が決まっていたのです。担当者はこう言いました。
「派遣先は今年の5月から申し込み受け付けが始まっている『持続化給付金』事業のコールセンターで、制度への質問や申請者からの問い合わせに対応する業務に就いていただきます」
応募から1週間とたたず、業務が始まりました。