この夏、政府の持続化給付金をめぐってさまざまなトラブルが起きた。その中には「不正受給」がある。渦中のコールセンターには、一体どんな問い合わせがあり、どんな対応が行われていたのか。元オペレーターがその内幕を明かす――。(第5回)
統計と電卓とボールペン
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「16歳の息子が、給付金100万円を受給してしまった」

7月も下旬を迎えると、持続化給付金の新規申し込みが一段落したのでしょう、審査状況の問い合わせ電話はかなり減りました。

代わりに目立つようになってきたのが、自分や身内が不正受給に関わってしまった、給付金詐欺の被害に遭った、あの店やあの人は給付金を不正に受給している、といった相談や通報でした。

私や、周囲のオペレーターが受電した内容をいくつか紹介します。

「16歳の息子が、給付金100万円を受給してしまいました。もちろん息子は事業などしていません。仲介者になっている学校の先輩に誘われて申請を任せたんだそうですが、黒幕もいるようです。息子はその先輩に通帳も渡してしまっていて、銀行まで給付金を一緒に下ろしに行き、半分以上を手数料として取られてしまいました。情けないことに、息子も残った給付金の一部を使ってしまったようです……。振り込まれた給付金は必ずお返しします。ただ、すぐに全額用意することができません。なんとか分割での返済にしていただけないでしょうか」

息子の過ちを知ったこの母親の動転や心労は、さぞやと同情せずにはいられません。しかし不正に得た給付金を返還する場合、受給側からの自主的な申し出があった場合でも、必ず全額を一括返済しなければならないのです。そして第三者に言われるがままに必要書類を渡して申請され、本人の取り分はわずかだったとしても、返済する主は申請時の名義人だと定められています。

「我々が申請代行を行います」と給付金詐欺の標的に

高齢者が給付金詐欺の標的となるケースも多々ありました。

「ある日突然電話がかかってきて、『あなたは持続化給付金を受け取れるので、必要書類のコピーをこちらに送ってくれたら、わずかな手数料で我々が申請代行を行います』と言われたんです。そのコピーや自分の情報を教えたら、しばらくして私の口座に給付金事務局から100万円の入金がありました。その後、同じ声の主からまた電話があり、『給付額の100万円をいったん、これから伝える口座に全額振り込んでください。今回の手数料を差し引いた上で、残金をお返しします』とのことだったので指定口座に振り込んだら、以降、連絡が途絶えてしまったんです。それでようやくおかしいと気付いたもんですから、どうすればいいか相談させてもらいたくて……」

80歳過ぎの女性でした。聞けば、過去にもオレオレ詐欺に遭ったことがあるとのこと。一度詐欺の被害者になると、犯罪者仲間の間でその人物の氏名や連絡先が共有されるというのをテレビの情報番組で見た記憶がありますが、もしかするとそのルートで狙い撃ちされてしまったのかもしれません。

終始、自分は被害者だと訴え続けていましたが、それでも彼女の名義で申請されているので、気の毒ですが100万円を一括返還しなければなりません。

かと思えば、20歳そこそこのAV男優から、

「業界の先輩にそそのかされて給付金を不正申請し、すでに受給済みだが返金したい。先輩とは別に、男優仲間を取りまとめて申請の代行をしている人がいて、受給後に謝礼として50万円を渡した。その人物と先輩はすでに逮捕されていて、自分も先日、詐欺の疑いで任意取り調べを受けたところ」

と連絡が入ったことも。