申告の最重要書類を「お尋ね者」の税理士が作成している
申請者から審査の進み具合についての問い合わせがコールセンターに入ると、電話を受けたオペレーターはまずリーダーやスーパーバイザーといった管理者を呼び、彼らだけがアクセス権を持つデータベースで進捗状況を調べた後に、許されている範囲の言い回しでオペレーターが入電者に回答することになっています。
8月の中旬あたりからでしょうか、そういった進捗確認作業の中で、入電者のデータを調べに行った管理者が、
「またこいつだよ……」
と呆れながら戻ってくる回数が増えてきました。
何事かと彼らに聞いてみると、給付金の審査において最重要書類となる確定申告書を、“お尋ね者”の税理士が作成している案件だというのです。
給付金申請には、基本的に2019年度分の所得税の確定申告書の控えの画像が必要となるのですが、申請者自身が作成したものである必要はありません。そもそも個人や法人の事業者が、税理士などの専門家に書類作成も含めた確定申告作業を代行してもらうのは、当たり前に行われていることですし。
同じ税理士の名前が記載された「怪しいケース」が続出
ところが、コロナ対策として税務署の混雑を防ぐため、本来3月16日だった2019年度分の申告締め切りが大幅に延長された措置につけ込み、その悪用を考えた税理士が全国各地に現れたのです。
4月に経産省から持続化給付金制度の立ち上げが発表されるや、そもそも申請資格がないのに濡れ手に粟の金儲けを目論むサラリーマンや主婦、学生などをSNSや口コミで募り、彼らを「事業者」とした確定申告書類を偽造して税務署に提出し、証拠書類を作成。審査が通った場合、申請者の給付金の一部もしくは大部分を報酬として受け取る、というのがその手口です。
5月の受付開始後しばらくの期間、申請者が殺到した上、迅速な給付を旨としていたため、それでなくても急造スタッフの寄せ集めだった審査部署は、かなりの数の不正受給者を生み出してしまいました。特に確定申告書は、作成した税理士の署名押印があれば“お墨付き”として機能するでしょうから、審査部署内の信用度が格段に高かったはずです。
しかし、申請が始まってからの数カ月を通じ、審査部署も提出書類の真贋を見抜く精度を上げていきます。その結果、複数の確定申告書の作成者欄に、共通した税理士の名前が記載されている明らかに怪しいケースがあることに気づき始めたのです。例えば4月以降の極めて短い期間の間に、ある税理士がはるか離れた遠隔地からの依頼分も含めた多数の確定申告書を作成、あるいは税務署に提出しており、しかもそのどれもが税金の納付が発生しないよう、適当な必要経費を計上して調整されている、とか。