サムスンの設備投資を有効に生かせない状況

9月15日、米国がファーウェイへの半導体輸出規制を発動したことによって、世界の半導体メーカーが一斉に同社への出荷を止めた。端的に、トランプ政権は、ファーウェイの事業継続の命脈を絶とうとしている。ファーウェイの成長は鈍化せざるを得ない。

中国の半導体需要を取り込んできたサムスン電子などの韓国半導体産業にとって、米国の制裁発動の影響は甚大だ。サムスン電子はメモリ半導体生産に加え半導体の受託製造事業を強化した。それによって同社は“中国製造2025”を推進し、高性能のICチップを必要とする中国市場でのシェア拡大を目指した。そのために、同社は5ナノメートルの微細化技術を確立した。

しかし、米国の制裁によってファーウェイへの出荷ができなくなれば、そうした設備投資を有効に生かすことは難しくなる。韓国のサムスン電子やSKハイニックスがファーウェイへの輸出を許可するよう米商務省に申請したのは危機感の表れだ。わが国ではソニーが申請を検討中だ。

台湾半導体大手TMSCの存在感は格段に高まる

中国を重視したサムスン電子の事業戦略は、台湾のTSMCと対照的だ。世界最大の半導体受託製造業であるTSMCの地域別売上高は、各国・地域の半導体需要の代理変数と考えてよい。内訳をみると、6割が米国、2割が中国、残りがその他だ。中国のかなりの部分がファーウェイによって占められ、近年は中国の割合が上昇した。

TSMCは、9月15日まではファーウェイの半導体需要を徹底的に取り込み、その後は米国の需要獲得を強化する戦略を進めた。その証拠に、米国の制裁強化に対応してTSMCはアリゾナ州での工場建設計画を発表した。

TSMCは最新鋭ステルス戦闘機F35などに搭載される軍用半導体の生産を手掛け、米国にとって手放せない企業だ。それだけに、TSMCは米国の知的財産や技術を有効に活用し、微細化技術に変わる新しい半導体技術の確立なども目指しているだろう。

その状況下、中国の需要を失ったサムスン電子やSKハイニックスが米国の需要獲得を目指すことは難しい。今後、半導体分野でのTSMCの存在感は格段に増すと考える経済の専門家は多い。