それでも、判断に困ったら、ザ・ウルフ朝倉がいる。

阪神大震災以後の危機管理、対応はすべて彼がやっているから、なんでも答えてくれる。危機対応は朝倉に全権任されており、朝倉で完結。必要に応じ、社長、友山に事後報告する。重層的な備えになっているから、解決策が見つからないことはない。

危機管理のリーダーは地位ではなく、場数を踏んだ人間から選ぶことだ。

対策会議が始まるのは基本毎朝8時。会議は30分から約1時間で終わる。新型コロナ禍では2月4日から始まった会議は2カ月ほどは毎日、開催した。災害への対処であれば、メンバーは全員、大部屋で顔を合わせるが、今回についてはリモートで出席するメンバーもいた。

操業停止の工場で確認する「3つの原則」

対策会議がまずやることはふたつだ。

ひとつは危機に直面している現地へ先遣隊を派遣すること。協力会社の工場が被災もしくは封鎖され、部品が出せないという一報が入ってくる。協力会社の人間が対策会議に電話やメール、会議アプリで状況を知らせてくるわけだ。

一般の企業であれば、情報の入手はここまでだろう。だが、トヨタは自社のプロを派遣して、あらためて現場で情報を取る。派遣されるのは規模にもよるが2名もしくは3名で、いずれも生産調査部に属する若手だ。

なぜ、部品を出せない協力工場にあらたに人間を送るのか。

「私も阪神大震災の時には行きました」と友山はその趣旨を説明する。

「先遣隊がプロの目で見て、復旧の判断をするからです。先遣隊、支援部隊はちゃんと教育されているから、見るところが違うのです。まず、彼らに叩きこんであるのはむやみに生産を再開させるなということですね。

第一は生命の安全確保。先遣隊だけではなく、協力工場の従業員、周辺の人々も含みます。2番目は生活の復旧。ガス、水道、電気の復旧をまず行う。3番目が生産の復旧です」

先遣隊は現場に着いたら、24時間以内に、3つの原則を確認する。そして、復旧のための第一報を対策本部に入れる。

役割は現場報告だけではない

第一報には「物と情報の流れ図」(注1 トヨタ生産方式の改善に使うフローチャート)を付ける。それを見れば、工場のどこが壊れていて、どこがネックになるかがひと目でわかる。本部はそれを見て、先遣隊の情報を聞いて、判断を下す。

先遣隊が伝えてくる情報は現場のことだけではない。復旧に必要な資材を本部に伝える。

「あの道具が必要だ。給水車、発電機も5台は欲しい」といったことだ。加えて、現地に赴く第1次支援部隊のメンバー構成についても先遣隊が決める。

「機械設備が倒れて使えないから保全のメンバーを増やしてほしい」といった具合だ。現場に居るものが一番良くわかると対策本部は現場判断を尊重する。