新型コロナの治療薬として注目されたアビガン。いつしか「効かない」という言説が広まったが、それは本当だったのか? 臨床研究の当事者が、120分、プレジデント誌に語った真実とは――。

「有効性示せず」「効果確認できず」と報道されたが…

「私たちは『(アビガンに)有効性がない』とは一言も言っていないはずです。服薬した患者はウイルス量に減少傾向が見られましたし、発熱期間も短縮しました。しかし、統計的有意差には達しませんでした。この結果によって『有効性示せず』というふうに“見出し”が一人歩きし、あたかも『研究に全く意味がない』という印象をもたれてしまったのは、大変残念に思っています」

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プレジデント誌の取材にこう語るのは、「アビガン(一般名ファビピラビル)」の効果を検証する特定臨床研究を実施した際の研究代表医師で、藤田医科大学医学部の土井洋平教授だ。

アビガンは富士フイルム富山化学が製造する新型インフルエンザ治療薬。インフルエンザに対しては細胞内でウイルスの増殖を抑える働きがあり、タミフル(一般名オセルタミビルリン酸塩)と同等の効果があるといわれている。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)にも同様の効果が期待された。

2020年5月、安倍晋三首相が会見で、同月中にも新型コロナの治療薬としてアビガンを承認する考えを表明した。日本全国から注目される中で土井教授率いる藤田医科大学の研究グループは、新型コロナに対する臨床研究を日本で初めて完遂。その最終報告(プレスリリース)を受けて、各メディアは「アビガン 有効性示せず」「効果確認できず」などと報道したのだった。

結果的にアビガンは20年8月末現在、いまだに新型コロナの治療薬として承認されていない。