新規カード保有者1人を増やすのに1万4785円を使うことに

そして次の「期待」がマイナポイントである。だが、「カード」を作らせるという政策に予算を使って、どれだけのカードが新しく作られ、それによって、行政コストが下がるのか、といった政策効果の検討はほとんどされていない。

マイナポイントはもともとカードを持っている人にも付与される。予算では4000万人の応募を見込んでいるが、すでに2324万枚が公布されているので、既存の保有者が全員ポイント還元の申請をした場合、予算の残りは1676万人分ということになる。つまり、キャンペーンが「成功」して予算をすべて使ったとしても、新規にカードを作る人が1676万人にとどまれば、前述の18%強の普及率が31%程度になるに過ぎない。国民全体に普及させるにはほど遠いのだ。そのために2478億円もの国の予算を使う意味があるのか。

その場合、新規カード保有者1人を増やすのに1万4785円(=2478億円÷1676万人)を使うことになる。それでカードの普及率を31%にしたとして、それに見合った税収増や行政コストの削減につながるのか。

カード会社が新規入会者に5000円のポイントなどを付与するのは当たり前の営業手法だ。それは、5000円を払っても、いずれカード利用によって回収できるとみているからだ。税金で実施するマイナポイントに使うカネはどうやって回収するのか。

カードが便利なら、国民はカードを作る

今回の「マイナポイント」キャンペーンには市役所など地方自治体の職員も事実上動員されている。マイナンバーカードを新たに作る人たちに作成方法を説明し、丁寧に手続きを教えている。もちろん、マイナンバーをすでに持っている人たちのキャンペーン登録にも時間を割いて協力している。

つまり、国の予算には現れない行政コストをそこにかけているわけだが、そうしたコストはいずれ回収できるのだろうか。ともかくも総務省が旗を振ることだから、効果など真面目に考えずに普及促進に邁進するということだろうか。

どう考えてもマイナンバーカードを普及させるために、国がひとり当たり5000円をばらまくというのは禁じ手だろう。国の政策に協力する国民にだけ金銭を配る、経済的利益を与えるというのが当たり前の世の中になったら、民主主義は大きく揺らぐことになりかねない。総務省はその危うさが分かっているから、「カード普及」を前面に出さず、「景気対策」ということにして逃げているのだ。

どうも「カードを普及させる」ということが自己目的化しているように思えてならない。カードを普及させる意味は何なのか。それはカードでなければならないのか。

カードが便利で生活に必要ならば、国がわざわざ5000円を配らなくても、国民はカードを作る。