着手小局の例を挙げよう。手前味噌になるが「犠牲にする機能を先に決める」という方針を商品企画の段階で打ち出すのは、メーカーにとっては画期的なことだ。とくに営業担当者は「競合にこの部分が負けているから、もっと機能強化をしてほしい」と要求するのがふつうである。装備が劣っていては戦争にならないと考えるからだ。

実際、スタッフレベルの文章では「犠牲にする機能」を明示できなかった。できるはずがない。しかし社長にはそれができる。命じて売れなかったときには責任を取ればいいからだ。

「機能を省くとこれだけのリスクがあります。商品化は難しいと思います」

「なるほど。だがそのリスクは、安全に関わるものではないようだな。それなら構わない。とにかくやってみろ」

部下の慎重論に対して、トップなら歯切れよく断言することができるのだ。私はこのとき、スタッフが上げてきた原稿に「犠牲にする機能を先に決める」と追記した。

こうした着手小局によって、着眼大局、つまりダントツ商品をいかにつくるかの道筋が誰の目にも明らかになった。結果、わが社のダントツ商品は次々と市場に投入され、やがて世界を席巻することになるのである。

最終的にデータを補完して完成原稿にまとめるのはスタッフの仕事でもいいだろう。だが、トップには「社長にしか言えない言葉」を付け加えるという大事な役割がある。このことを怠ってはならないと私は思う。

そのためには、物事の本質をはずさない正しい認識を持つことが絶対に必要だ。そして正しい認識を持つには、書くことが重要な意味を持つ。紙の上に文章として書き付けることで、頭の中の雑多な考えが整理される。無駄が排除されることで、最短距離の論理が形成され、やがて認識が明瞭な姿を持ち始める。

考えたら書くことだ。パソコンを使うのもいいが、できれば紙にペンや鉛筆で書き出していく。筆圧をかけて文字をつづれば、無駄なことを書きたくないという心理も働く。それにより、論理的な思考力は磨かれるのだ。

(面澤淳市=構成 芳地博之=撮影)