「大好きだった銀行株」を手放した意味
バークシャーは、2008年に発生した金融危機時に、ゴールドマンの優先株を取得した。その後、同社の大株主となっていた。しかし、1~3月に保有株の約8割を売却。4~6月に残りも手放した。JPモルガン株も約62%削減した。さらに、ウェルズ・ファーゴ株も約26%減らした。保有比率が低下し、筆頭株主から外れたとみられる。
バークシャーは1989年にウェルズ・ファーゴ株を初めて取得。2016年に不正営業が発覚した際も、経営陣の対応の遅さを批判しつつも株式保有を継続していた。バフェット氏は今年5月の株主総会で、米経済の先行きについて長期的には強気の見方を示していたことから、6月にかけて判断を一変させたことがわかる。
銀行株は、経済成長の恩恵を受けやすく、同氏が好むことで知られる。ただし、米銀は新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化で、貸し倒れに備えた引当金を大幅に積み増し、業績は悪化していた。FRBによる低金利政策で利ざやが縮小し、中長期的な収益力の低下も懸念されているため、これを嫌気して銀行株の大半を売却したものと思われる。
「配当好き」バフェット氏の変節
その一方で、バリック・ゴールド株を取得したのは、バフェット氏の金に対する考え方が変わった可能性がある。
これまで金投資を明確に否定していたので、さすがに金に直接投資することは避けたものとみられる。そこで、株式を経由して金のエクスポージャーを取得する、すなわち、金への投資をすることで、金価格の変動を収益に結び付けようとする意図があったといえそうだ。これは非常に興味深い。
産金会社は金価格が上昇しなければ収益が上がらない。つまり、間接的に金に投資しているのに等しい。また、金鉱株への投資には、それ以外にもさまざまな事業リスクがあるため、金価格の上昇を直接的に享受できるわけでない。
配当が好きなバフェット氏のことだから、バリック株の配当に興味があったのだろうと調べてみると、たしかにバリックの普通株は配当を支払っているのだが、その配当利回りはわずか1.2%。配当を狙っての投資とはいえず、金相場の上昇の恩恵を受けやすいバリック株を取得し、やはり「間接的に金に投資した」と考えるのが妥当といえそうだ。