したくなければ投資はしなくても良い

それでは、ファイナンシャルプランナー(以下、FP)の立場から、「投資はすべきか?」という問いに対しては、「投資したくないなら、ムリにしなくてもよい」と申し上げている。

投資戦略もなしに、ただやみくもに投資を始めても失敗するだけだし、そうなればますます投資に対して負のイメージしか持たなくなる。それに、個々の事情(例えば、生活費の3ヶ月〜6ヶ月分のイザという時のためのお金がない。1、2年以内に資金の使い道が決まっている等)によって、投資すべきでない人もいるからだ。

これから、その理由をもう少し詳しく説明しよう。

基本的に、家計を改善させるための対策法は、①「収入を増やす」②「支出を減らす」③「運用する」の3つだけである。

このうち、①と②は、どの世代や属性でも「すべき」だとお伝えしている。筆者はFPとして独立して20年以上たつが、この間、手取り収入が伸び悩み、もはや“節約”はマストアイテム。いくら収入が高くでも、支出がそれを上回るようであれば、いずれ家計は破綻する。

リタイア後のセカンドステージ、サードステージに向け、収入を増やす方法を検討しつつ、入ってくるお金の範囲内で支出をやりくりするというのは、必要不可欠である。

投資をするというのは、③「運用する」に該当する。いわばお金にも働いてもらうわけだ。

しかし、対策法のうち上記①②に比べて、③はぐっとハードルが高いと感じる人が多い。そして、これを実行できない人は、前掲の山下さんのように、以下の3つのタイプがある。

投資を始められない人の3つのタイプ

(A)ソンをしたくない
ちょっとでもお金が減ってしまうのが怖い、イヤだと感じて、金利が低くとも、元本保証のある貯金に固執するタイプ。

(B)リスクを取りたくない
上記の(A)と共通する面もあるが、ドキドキしたくない。“リスク”と聞いただけで、必要以上に投資商品を危険なモノだと考えているタイプ。

(C)どの商品を選んだら良いかわからない
投資商品に興味はあって、やってみたいが、たくさんある商品の中からどれを選んで良いかわからないタイプ。

いずれのタイプも、「なぜ投資をすべきか」(投資の目的)や自分がどれくらいリスクを取れるのか(リスク許容度)がはっきりしておらず、金融や投資の知識が不足していることが、投資できない最大の理由である。そのために、若年層からの投資教育が必須なのだが、それに触れないまま社会人となっている人が大多数だ。

さらに、元本保証のある預貯金が高金利だった時代を忘れられない人もいる。

かつて1970年代ごろ、郵便局の定額貯金は10%超のものもあった。その後、徐々に金利は引き下げられたものの、バブル崩壊前の1990年代初頭の定期預金は6%台。

生命保険も、1985年4月1日~1990年ごろまでは利回り6%と今では考えられないような利率で、いわゆる解約してはいけない“お宝保険”と呼ばれていた。

今の50代~70代は、その頃の恩恵を受けた人も多い。リスクを取らなくても、満期になれば、元本とまとまった利息が受け取れる安心感は何物にも代えがたい。

それに、バブル期に株式や投資信託などを投資して、大きな損失を被った人もいただろう。今更、投資などこりごりというのが正直なところではないだろうか。

「親世代」が投資を経験していなければ、「子世代」に投資によって得られた“成功体験”が引き継がれるわけもない。