安倍政権は尖閣をどう守るのか
尖閣周辺水域での領海内・接続水域内への中国船の侵入が激増したのは、2012年9月、日本政府による「尖閣国有化」以降だ(海上保安庁HP参照)。もちろん「国有化」以前から日本の領土であったが、「国有化」とは尖閣諸島のうち3島(魚釣島・北小島・南小島)の民法上の所有権を、民間人から国に移したことを指す。
「国有化」そのものは民主党・野田政権時になされたものだが、同年12月に自民党・安倍政権に交代して以降も中国公船の侵入は減っていない。政権交代時の自民党の政権公約には「尖閣諸島の実効支配強化と安定的な維持管理」を掲げ、「わが国の領土でありながら無人島政策を続ける尖閣諸島について政策を見直し、実効支配を強化します。島を守るための公務員の常駐や周辺漁業環境の整備や支援策を検討し、島および海域の安定的な維持管理に努めます」としていたが、ご存じの通り公務員の常駐は今なお行われていない。
安倍政権は尖閣をどう守るつもりなのか。これだけの中国公船の侵入を許すのは、政府による不作為ではないのか。政府は海上保安庁の予算増など、体制強化は行ってはいるが、中国の「海洋覇権」に対する姿勢に至っては、腰砕けしたと見られても仕方がない状況にある。
安倍政権対中政策の方針転換
安倍総理は第2次政権発足直後、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」と題する対中安全保障構想を「プロジェクトシンジケート」に英語論文で発表。以降、しばらくは「法の支配」を掲げ「力による現状変更」をもくろむ中国を批判し、太平洋の安全、安定を守ることに日本も協力するとサミット等で述べるなど、中国の海洋覇権のもくろみを牽制してきた。尖閣諸島のある東シナ海での振る舞いだけでなく、南シナ海での中国の勢力拡大をも批判していた。
ところが、ある時期からは対中融和姿勢に舵を切り、日中関係の安定を重視する姿勢に転じた。この転換が、新型コロナ対応で「中国からの入国禁止」などの強硬姿勢をとれなかった一因になっているともいわれるが、こうした対中政策の方針転換は、「法の支配」を掲げる安全保障・外交政策を主張してきた谷内正太郎・国家安全保障局局長が、2017年の官邸と二階幹事長主導の「中国・習近平宛親書書き換え事件」に激怒し、外交方針への影響力を失ったうえ、2019年9月に退任したことが影響していると指摘する識者もいる(産経新聞論説委員長・乾正人『官邸コロナ敗戦』)。