店舗が休業する中、通販向けの新商品を開発
直営店の大半が繁盛店だったサザも、新型コロナでの緊急事態宣言や外出自粛を受けて、店舗の売り上げは激減した。「営業していた13店舗中、商業施設に入居する9店舗は休業。短縮営業した4店舗も売り上げは75%減となりました」(鈴木氏)
コーヒー品評会「ベスト・オブ・パナマ」の国際審査員をはじめ、国内外のコーヒー品評会の審査員も務める鈴木氏は、世界最高級のコーヒー豆「パナマ・ゲイシャ」を日本に紹介した立役者で、通常ならコーヒー生産国を中心に世界各国を飛び回る。
「海外出張ができないので、在庫分のコーヒー豆の違う焼き方を試してみたり、ツイッターで『ウィークリー サザコーヒー太郎』という動画を配信したりもしました。当初は毎日配信したので、焙煎や抽出などのネタが尽きてきた頃、新たなネタと出会ったのです」
どういうことか。
「サザコーヒー本店にはケーキ工房もあり、自家製スイーツを作ります。店舗の売り上げ減少を補う通販の新商品として、コーヒーゼリーを試作していました。これを動画で紹介しようと飛びついたのです。即席でおいしいコーヒーゼリーも自分でつくり配信。色が似ているというだけで、そばつゆでもゼリー状の仕上げを試しました」
鈴木氏の持ち味は、こうした積極性だ。従業員から見れば、「どこに連れていかれるか、分からない」時もあるが、功名心よりも好奇心が強い。意表をつくような発想も、同社の知名度を上げてきた。中小企業が参考にできそうな活動も多いので、一部を紹介しよう。
夫婦で始めた喫茶店を成長させたサザの「気性」
サザコーヒーは、鈴木太郎氏の父・鈴木誉志男氏(会長)が1969(昭和44)年に創業した老舗だ。27歳で開業した誉志男氏が、妻の美知子氏(前社長)とともに徐々に拡大させた。もともと、昭和時代の「喫茶店マスターとママ」だったが、相撲の親方でいう“一代年寄”で終わらなかったのは、「進取の気性」が従業員も含めて受け継がれてきたからだ。
『日本人のコーヒー店』(柴田書店)という著書も持つ父は業界の重鎮で、多くの個性的なコーヒーを開発してきた。時に無鉄砲に思える決断を、みんなで軌道に乗せた事例も多い。
例えばコロンビアで所有するコーヒー農園は、これまでに3回も「コーヒーさび病」などで全滅。近年ようやく良質なコーヒー豆が収穫でき、品評会で入賞を果たすようになった。