富士山はいつ噴火するのか

私たち専門家は「火山学的には富士山は100%噴火する」と説明するが、それがいつなのかを前もって言うことは不可能である。たとえば、雑誌やテレビで富士山噴火を年月日まで明言する人が後を絶たないが、科学的にはまったく根拠がない。

確かに噴火予知は地震予知と比べると実用化に近い段階まで進歩したが、残念ながら一般市民が知りたい「何月何日に噴火するのか」に答えることは無理なのだ。火山学者が予測できることは、低周波地震の数週間から1カ月ほど後には噴火が始まる可能性が高い、というだけである。

と言っても、噴火は直下型地震と違って、ある日突然襲ってくるということはない。現在の観測態勢は完璧ではないが、地震や地殻変動などの前兆現象を現在の予知技術は見逃さない。

火山学者は24時間態勢で、観測機器から届けられる情報をもとに富士山を見張っている。なお、現在(2020年7月)の状態は直ちに噴火につながるものではないことも知っておいていただきたい。

火山の噴火には予兆があるとは言っても、具体的に噴火する何時間前か、何週間前かはやってみないとわからない。その難しさは「イチ・ゼロ」ではなく、毎回が「想定外」との勝負なのである。未知の自然現象に人間が対処するという点で、新型コロナの対策とも似ているかもしれない。

こうした状況では、自然災害に対する正確な知識を事前に持ち、起きつつある現象に対してリアルタイムで情報を得ながら、早めに準備することが肝要である。過度の不安に陥るのではなく「正しく恐れる」ことが大切と言えよう。

ハザードマップを活用せよ

「噴火のデパート」と呼ばれる富士山では、溶岩流や噴石、火砕流、泥流など多様な被害が発生する(図表3)。特に噴火の初期には、登山客や近隣住民など、富士山のもっとも近くにいる人へ危険が及ぶ。一方、溶岩流は1日〜数週間くらいかけて流れるので、後になってから流域の経済的被害が発生する。

富士山のハザードマップ(火山災害予測図)の要点をまとめた図。鎌田浩毅編著『まるごと観察 富士山』(誠文堂新光社)による。

こうした内容はハザードマップと呼ばれる「火山災害予測図」でくわしく知ることができ、全てインターネットでダウンロードできる。まずハザードマップを入手し、どのような被害が起こりうるのか知識を持っておくことが大切である。

一方、公表されたハザードマップや国の報告書は、市民の目線で書かれていないので読みにくいという評判も聞く。それを受けて私も富士山噴火の解説書(『富士山噴火と南海トラフ』講談社ブルーバックス)を刊行したが、身近な住まいや仕事にどのような影響があるかを、噴火の前にぜひ知っていただきたい。

自然災害では何も知らずに不意打ちを食らったときに被害が最大となる。日本は火山国といっても実際に噴火を見た人はそう多くはない。人間は経験のないことに直面したときにパニックに陥りやすい。

火山灰が降ってきてからでは遅いので、「平時のうちに準備する」のが防災の鉄則なのである。新型コロナの終息が見えない現在、ライフラインの早期復旧手順や避難場所の確保など事前の対策も急務だ。富士山噴火との複合災害だけは起きてほしくない、と火山学者の全員が固唾をのんで見守っている。

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