富士山の噴火は予測できるか

最初に富士山が噴火するメカニズムを見ていく。現在、富士山の地下約20kmにはマグマで満された「マグマだまり」がある(図表1)。ここには1000℃に熱せられた液体マグマが大量に存在し、それが地表まで上がると噴火が始まる。

噴火の前には前兆現象が観測される。まず、マグマだまり上部で「低周波地震」と呼ばれるユラユラ揺れる地震が起きる(図表1のa)。これは人体に感じられない小さな地震で、しばらく休んでいたマグマの活動が始まったときに起きる。

さらにマグマが上昇すると、通路(火道)の途中でガタガタ揺れるタイプの地震が起きる。人が感じられるような「有感地震」である(図表1のb)。地震の起きる深さは、マグマの上昇にともない次第に浅くなっていくので、マグマがどこまで上がってきたかがわかる。

その後、噴火が近づくと「火山性微動」という細かい揺れが発生する(図表1のc)。マグマが地表に噴出する直前に起きるため、「噴火スタンバイ」状態になったことを示す。

富士山の地下ではときどき低周波地震が起きているが、マグマが無理やり地面を割って上昇してくる様子はまだない。噴火のおよそ数週間から1カ月ほど前にこうした現象が起き始めるので、事前に噴火を把握することができる。

富士山の地下構造と噴火前に起きる現象。鎌田浩毅著『日本の地下で何が起きているのか』(岩波科学ライブラリー)による。
富士山の地下構造と噴火前に起きる現象。鎌田浩毅著『日本の地下で何が起きているのか』(岩波科学ライブラリー)による。

首都圏が機能停止するまで

1707年の宝永噴火では大量の火山灰が富士山の東方面に飛来し、横浜で10cm、江戸で5cmも積もった(写真)。火山灰は2週間以上も降りつづき、昼間でもうす暗くなったという。

富士山の東で大量に降り積もった火山灰。
撮影=鎌田浩毅
富士山の東で大量に降り積もった火山灰。

今、富士山が大噴火したら江戸時代とは比べものにならない被害が予想される。火山灰が降り積もる風下に当たる東京湾周辺には、多くの火力発電所が設置されている。ここで使用されているガスタービン中に火山灰が入り込むと、発電設備を損傷する恐れがある。

また、雨に濡れた火山灰が電線に付着すると、碍子がいしから漏電し停電に至ることがある。すなわち、火山灰は首都圏の電力供給に大きな障害をもたらす可能性があると言える。

同様に、細かい火山灰は浄水場に設置された濾過装置にダメージを与え、水の供給が停止する恐れもある。大都市のライフラインに火山灰が及ぼす影響が心配されるのだ。

さらに室内に入り込むごく細粒の火山灰は、花粉症以上に鼻やのどを痛める可能性がある。目の角膜を痛めたり気管支炎を起こしたりする人も続出し、医療費が一気に増大するだろう。

富士山の近傍では、噴出物による直接の被害が予想される。富士山のすぐ南には、東海道新幹線・東名高速道路・新東名高速道路が通っている(図表2)。もし富士山から溶岩流や土石流が南の静岡県側に流れ出せば、これら3本の主要幹線が寸断される。首都圏を結ぶ大動脈が何日も止まれば、経済的にも甚大な影響が出るに違いない。さらに、富士山の裾野にはハイテク関係の工場が数多くある。細かい火山灰はコンピューターの中に入り込み、さまざまな障害を起こす可能性が考えられる。

宝永噴火と同規模の噴火が起きた場合の降灰予測図。鎌田浩毅著『富士山噴火と南海トラフ』(講談社ブルーバックス)による。
宝永噴火と同規模の噴火が起きた場合の降灰予測図。鎌田浩毅著『富士山噴火と南海トラフ』(講談社ブルーバックス)による。