ほほ笑みに隠された「二枚舌」

ドナルド・トランプ政権の内実を暴露した回顧録を6月23日に出版し、注目を浴びているジョン・ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の回顧録『The Room Where It Happened』は、文大統領の実態を知るには欠かせない「教科書」ともいえる。詳しくは売れ行き好調なボルトン氏の著書を読んでほしいが、そこには「おいおい、こんなことで本当に良いのか」という驚愕きょうがくの証言が記述されている。

それによると、2019年4月に米ワシントンで開かれた米韓首脳会談で、トランプ大統領が北朝鮮への軍事オプションについて触れた際、文大統領は対北軍事協力を行うことができるとの意向を示した。同盟関係にある両国が軍事オプションの可能性について協議していること自体は当然ではある。

問題といえるのは、文大統領のぎこちないほほ笑みに隠された「二枚舌」の部分で、それは度が過ぎれば歴史をも変えてしまう危険性があることを物語る。ボルトン氏の回顧録によれば、文大統領は2018年4月27日、板門店で11年ぶりとなる南北首脳会談を開催。その翌日、トランプ大統領との電話会談で「金委員長が豊渓里(プンゲリ)核実験場の閉鎖、完全な非核化を約束した」と伝達したという。文大統領は執拗しつように米朝、米韓朝の首脳会談開催を要請し、米国は文大統領による「仲介」の結果を含めて対北戦略を練ってきたが、この根幹となる「完全な非核化の約束」という部分が「二枚舌」だった可能性が指摘されている。こうした一連の動きについて、東亜日報は「文氏が金正恩氏の意図を誤認したか、自分が望むように拡大解釈した可能性を排除できない」と報じている。

トランプ大統領は「2分間」しか文大統領と向き合わなかった

回顧録にある通り、文大統領が米韓朝3カ国での首脳会談という「テレビ映り」を気にしていただろうことは容易に想像がつくが、文大統領による情報に基づいてマイク・ポンペオ米国務長官が平壌訪問で非核化に向けた措置を協議した際、北朝鮮側が「一方的で強盗のような要求」と反発したことを考えれば、かなり恐ろしいものがある。これ以外にも北朝鮮側が提案していると思われたシンガポールでの「終戦宣言」についても、ボルトン氏は「文大統領によるもの」との疑いを持っている。

さすがに米国は世界最高レベルにある独自の情報網を駆使した上で米朝首脳会談などに臨んでいたと信じたいが、国益がかかる外交で事実と異なる「二枚舌」がもしも生じていたとすれば、あまりにも恐ろしい。2019年4月にホワイトハウスで開催された米韓首脳会談で、トランプ大統領はわずか「2分間」しか文大統領と向き合わなかったが、その背景にはあまりにも無茶な文大統領による「歴史修正」への怒りがあったのかもしれない。朝鮮日報は6月23日配信の記事で、2019年4月と2018年5月の米韓首脳会談に関する青瓦台の発表とボルトン氏の回顧録にある記述を比較する記事を配信し、「信じ難いほど隔たりが大きい」と評している。