日本では民間主導の「デジタル円」協議会が発足
では、「デジタル円」発行に向けて、実際にはどのような動きがあるのでしょうか。先のパウエル議長の発言に先立つ6月5日、日本でも「デジタル円」の実現へ向けた協議会が設立されることが各メディアで報じられました。
ここで注目すべきは、この協議会が、日本銀行の主導ではなく、仮想通貨取引所を運営する民間のディーカレット(通信大手インターネットイニシアティブ<IIJ>の関連会社)が事務局を務め、三大メガバンクやNTT、JR東日本ら民間企業が参加する形で発足していることです。
「デジタル円」は中央銀行が発行する、デジタル形式をとる法定通貨です。それなのに、日銀主導ではなく、民間主導で協議会が作られるというのは、やや奇妙な構図にも見えます。パウエル議長も先日の議会証言で、「民間セクターは、デジタルドルの開発に関与すべきではない。それは、中央銀行がやるべきことだ」とはっきり述べています。
パウエル議長の言う通り、本来、中央銀行がやることに民間企業があれこれと口を挟むのは、望ましいことではないはずです。通貨発行という公的な分野に、民間企業の私的利害が入り込むようなことがあってはいけません。「デジタル円」はあくまで日本銀行の主導のもと、公正に進められるべきものでしょう。
しかし、長年にわたり通貨の動向を研究してきた著者からすると、この協議会の設立は、必ずしも悪い話ではないように思えます。なぜなら、拙著『アフター・ビットコイン2』でも強調したように、CBDCの発行は「中銀がすべてを自前でやる必要はない」と考えているからです。
民間の技術を、中央銀行が使う
現在は、ブロックチェーンという新しい技術(しかもまだ発展途上にある技術)を使って、デジタル通貨を作ろうという競争が繰り広げられている局面です。こうした新しい技術をいち早く使いこなすのは、実際のところ、中央銀行はあまり得意ではありません。
むしろ、これまでは民間でのイノベーションが先行して、技術が成熟した段階で、ようやく満を持して中央銀行の業務に取り入れていくという展開が一般的なのです。
世界で初めての紙幣である中国の「交子」でも、日本で最古の紙幣として使われた「山田羽書」でも、最初にそれを使ったのは、民間の商人です。初めから公的なものとして使われた訳ではなく、利便性の点から民間で流通していた紙幣を、後から国家的なものに格上げして、貨幣として採用したのです。