また、コンピュータやネットワークの利用という面でみても、わが国の民間銀行が勘定系処理のために本支店のオンライン(いわゆる第1次オンライン)を導入したのが、1960年代の半ばごろでした。

これに対して、日本銀行が初のオンラインシステムである「日銀ネット・当預系」を構築したのが1988年のことであり、両者の間には20年以上のタイムラグがあります。

このように見ると、新しい技術の応用という面では、民間部門の方が優れており、一日の長があると言えるでしょう。このため、テクノロジーの使いこなしという面では、民間部門が先行していく可能性が高いものとみられます。そして、技術が成熟したところで、後から中央銀行が使っていくというのが、従来想定される流れであり、また望ましい順番であるように思います。

青空を背景に日本銀行
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「民間から議論を盛り上げる」デジタル円構想?

ところが、通貨の場合には、必ずしもこの順番通りには行かない可能性が高いのが悩ましいところです。もし、フェイスブックのリブラ(あるいは他の民間デジタル通貨)が導入されて、世界中の人がこれを広く利用するようになったあとで、各国の中銀がそれぞれのデジタル通貨を出しても、あまり利用されないかもしれません。

これまでのように、民間部門の試行錯誤を高みから見物し、技術の成熟を待ってから満を持して乗り出すという訳には行かないのです。

さて、先に触れたように「デジタル円」協議会が民間主導であることは事実ですが、メンバーをよく見ると興味深いことがわかります。座長を務めるの山岡浩巳氏(フューチャー株式会社取締役)は、2018年まで日本銀行の決済機構局長を務めた元日銀マンです。そして事務局を務めるディーカレットの親会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の代表取締役は、元財務省次官の勝栄二郎氏です。

つまり、「デジタル円」協議会は、民間主導とは言え、金融当局にも深く通じた人物が関わっているのです。そして、協議会の議論には、金融当局(金融庁、財務省、日本銀行など)もオブザーバーとして参加しています。

こうしてみると、「デジタル円」協議会の設立は、日銀と民間のあいだで綱引きが行われていると言うよりも、実際には、民間側からCBDCへの議論を盛り上げ、日銀の行動につなげていこうという意図があるものとみられます。