証券会社の機能を包含した「ワンバンク」
村田製作所の依頼内容は、京都法人営業第一部を通じてCA本部へと伝えられた。1週間以内に、何らかの回答をもらいたい――。だが、「このときも、我々が知らないような話が出てくることは考えにくいと思っていました」と南出は当時を振り返って率直に言う。
三井住友銀行の動きは早かった。同社からのアポイントが村田製作所に入ってきたのは、その3日後のこと。CA本部でこの案件を担当した安地和之は、大和証券SMBCの担当者とともに京都法人営業第一部の部長に案内されて村田製作所本社を訪れた。2階の会議室で話し合いが始まる。まず、安地が提示した工場群は、案の定、村田側でも認識しているものにすぎなかった。
ところが、だ。それが終わるや、安地はやおら、ポケットから図面や航空写真を取り出して、机の上に広げた。富士フイルムの仙台工場。村田側が予想だにしなかった提示条件を満たす案件だった。
同工場は富士フイルムが内製用の部品生産のために稼働させていたが、生産体制の見直しから人員規模を縮小しつつ、機会があれば売却したいと模索していた。富士フイルムの経営ラインにソリューション営業を展開する過程で、この相談を受けていたのが安地だった。安地は京都法人営業第一部からの連絡を受けるや、直ちに富士フイルムに出向き、村田製作所の意向を伝えて、図面や航空写真などの資料を預かった。
村田製作所は驚いた。その数日後には、村田製作所の事業本部長などが富士フイルムの担当者と面談。さらに5月のゴールデンウイーク明けには企画部長と事業本部長が仙台へと飛んで、現地視察を行った。その後、若干の紆余曲折を経たものの、このディールは実を結ぶ。
「とにかく、三井住友の対応は早く、そのうえ、期待以上だった。社内では三井住友に相談したのが正解だったと話し合いました」
そのときのことを述懐する南出は、「このような案件の場合、往々にして大手銀行は傘下にある証券会社に委ねると思っていたので、銀行の中に対応する部門があったのかと思いました」とも語る。三井住友の「ワンバンク」ぶりが意外だったというわけだが、そのスピーディーさもさることながら、「日ごろ、提案を受けている金融機関の中でも、おそらく、我々がいちばん聞きたい具体的な提案を最も持ってきてもらっている」と評価している。(文中敬称略)