手数料収入で稼ぐ投資銀行に勝る理由

経常収益と本業利益(実質業務純益)の推移
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経常収益と本業利益(実質業務純益)の推移

じつは、この考え方は「CA本部という部隊を創設した際に宿澤さんが強調した」ことだった。顧客企業が永続的に成長することができれば、そこで新たな取引の可能性も生まれる。萩田はそれを忠実に守り、今や、IT関連分野で具体的な提携などが明らかになるたびに、そのライバル企業から「萩田、おまえが関わったのか」という電話がかかるまでになった。

しかし、萩田たちは存在の見えないステルスだ。

「我々、商業銀行にとって、実績を誇ることは重要ではありません。大事なのは顧客と末永くお付き合いいただくことです。刹那的なディールで、こんなに儲けましたと胸を張るインベストメントバンカーではありませんから」

一般には見えないものの、顧客企業の経営課題をスピーディーに解決した事例はまだある。

07年初め、精密部品大手企業、村田製作所は経営企画ラインを中心に、ある問題をシリアスに議論する毎日を送っていた。携帯電話用のフィルター部品である表面波フィルターの生産体制について、海外の有力納入先企業から安定供給体制に向けたある要請が舞い込んだからだ。

生産拠点の石川県など北陸地域では地震が発生。継続的な供給責任を果たすうえでは、第二工場が是が非でも必要になった。しかも、可及的速やかに、である。一から建設するのでは間に合わない。類似の生産スキルを持つ人員を備えた妥当な既存工場の出物はあるのか――。内部での調査の果てに、4月、最終的に金融機関に打診することを決定した。

その際の条件について「条件設定はやや厳しかった」と、村田製作所の企画部企画一課長の南出雅範は説明する。具体的には「用地面積は10万平米ほどで、半導体プロセスをやってきた、クリーンルームを備えた施設。しかも、できたら、1、2棟あるだけで、生産工程を担っている人員は最小限」という内容だ。ハードルは高い。

したがって、村田製作所では自らの手で調査した以外の案件が、打診先から出現するかどうかは半信半疑だった。実際、その前に受けた証券会社などからの提案案件は、要求水準を満たすものではなかった。