人手不足を女性、高齢者、外国人の増加で賄う
人口減少が避けられないわが国において、とりわけ若い世代の経済環境を改善するためには、生産性向上を図ることが不可欠であると考えるが、ここで、筆者が考える生産性向上のイメージをクリアにしておこう。
例えば、「製品Aを、現在、労働者一人で1カ月に10個作り、10個売れていた」とする。景気が好転することなどにより製品Aが月に20個売れるようになった場合、この需要の増加への対応は二通り考えられる。第1は、設備投資をしてより効率の良い製造装置を購入し、労働者は一人のままで20個生産する方法である。第2は、同レベルの技量を持つ労働者をもう一人雇い入れて10個増産する方法。
1番目の方法は、まさに生産性向上であり、労働者の賃金を引き上げる原資やさらなる設備投資を行うための余剰を生み出すことが期待できる。人口減少が不可避のわが国が目指すべき方向と言えよう。とりわけ、生産性向上に向けた設備投資は、最新の装置やIT機器の導入を促すことから、新しい労働環境への順応性が高く、ITリテラシーに長けた人材の重要性が増す。各企業が先を争い技術革新の成果の導入を図るようになれば、専門学校や大学で最新のIT教育を受けた若い世代に対する期待から、おのずと彼らの賃金上昇が図られ、現在生じている賃金の世代間格差も是正されることになろう。
2番目の方法は、まさに労働集約的な発想であり、生産性の向上は図られず、労働者の賃金を引き上げることも難しい。わが国の場合、長期にわたり人手不足の状況にあったが、これまでは高齢者、女性、外国人労働者といった新たな低賃金層を雇用することで対応してきた。
実際、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)が20年以上にわたり減少を続けているにもかかわらず、わが国の労働力は横ばいから、足もとでは微増傾向にある(図表3)。労働力人口(生産年齢人口のうち、働く意思と能力を持っている人口)の緩やかな伸びがみられる2014年以降では、生産年齢人口が280万人減少したにもかかわらず、逆に労働力人口は220万人増えた。
同期間、生産年齢の男性による労働力人口は54万人減少したが、高齢者と女性、加えて外国人の労働参加が、全体を押し上げている。特に、団塊の世代の人口の多さと働く人の割合の高まりにより、高齢者の労働力人口の増加が顕著である。
女性も、近年働く人の割合が急上昇しており、以前はわが国よりも高かったアメリカやフランスを上回る水準となった。育児のために、長期にわたって仕事を離れる女性は少数派となった。また、労働力としての外国人も増えており、近年、わが国は好景気による労働需要の高まりを、IT投資などによる生産性向上ではなく、どちらかと言えば低賃金労働者を増やすことでカバーしてきたのである。
結果的に、とりわけ生産性向上が図りにくいとされる小売業や飲食・宿泊業などの対人サービスを要する業種を中心に賃金上昇は抑制され、労働集約的な事業や雇用環境が温存された。それらの業種は、新型コロナの感染拡大による“自粛”や経済活動の停滞による悪影響をまともに受けた形で休廃業に至り、雇用が維持できなくなっている。