いまや3つの要因がすべて出生数を下押し

要因分解の結果を示した図表1から明らかなように、2016年以降、わが国の出生数が急減したのは、3つの要因がすべて出生数の下押しに寄与し始めたためである。図表は、2018年までの分析結果であるが、2019年はさらにその影響が顕著であったと考えられる。

長らく少子化と言われながら、2015年までは3要因のうち少なくとも1つの要因が、出生数の押し上げに寄与していた。例えば、2010年代前半は、女性の人口が減少し、その年齢構成も徐々に高齢化したが、出生率が緩やかに回復したため、出生数の急減は抑制された。2006~2015年まで、出生率要因が出生数の押し上げに寄与したのは、2005年に1.26という極めて低い合計特殊出生率を記録したことの反動とともに、この時期以降30歳以上の年齢層で出生率が高まる晩産化の傾向が顕著となったことの影響である。

以上を踏まえると、今後出生数のV字回復どころか、現在の水準を維持することすら難しいことがわかる。人口規模の大きな団塊ジュニアが2020年に45歳を超えたことにより、今後人口要因が出生数を押し上げることは期待薄である。

唯一、出生率を高めることによってのみ出生数を増やすことが期待できるものの、若い世代がおかれている経済・社会環境からみて、これも厳しい状況にあることは変わりがない。わが国では、今後人口が減り続けることを前提としながらも、経済成長を果たし、若い世代の経済環境などを改善していくことが必要となる。

政府の安易な地方への人口誘導策は誤り

わが国の出生数についての議論として、「東京一極集中が、少子化を助長している」というものがある。政府も、地方創生戦略において、若い世代が地方に暮らすことがわが国の出生数を押し上げるとして、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の転入超過を早期にゼロにすることを目標に掲げている。

確かに若い世代が出生率の高い地方に暮らした方が、子どもの数が増えるという考えは受け入れられやすいし、地方での子育てを経験した筆者も、地方の子育て環境の良さは分かっているつもりである。

問題は、東京圏への流入抑制による出生数の押し上げ効果がどの程度なのか、ということである。そこで、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計のデータの中で、都道府県間の人口移動をゼロと仮定して将来人口を推計する「封鎖人口」というデータを用い、その際の出生数を試算した。

その結果、人口の都道府県間移動を封鎖することによる2030年の出生数は、人口移動を想定した通常の将来人口推計に比べて約5000人多い結果となった。5000人という増加数をどのように受け取るかは人それぞれであるが、これは全国の出生数を0.6%押し上げる効果しかなく、出生数をV字回復するには全くの力不足である。