そもそも原発がセーフかアウトかを大局的に判断するのは原子力安全委員会の役割だが、どんなボールもストライクと判定してしまう原発贔屓の審判では誰も信用しない。安全委の現委員長である班目春樹氏は、電力会社や経産省の意向で原発の定期検査の期間を13カ月から18カ月、24カ月に延長するためのプロジェクトの主査だった人物だ。

一方、原子力安全・保安院は事故の現実を理解できずに、現場から離れた場所で東電からの報告に基づいて後づけの解説をしていただけである。観客席で無責任なことを言っている野球解説者のようなもので、こちらもまったく信頼できない。

日本のお役所はどこもバイアスまみれで、国民の立場に立った中立的な判断ができない。本来、一番中立でなければならないのは内閣府、首相官邸だが、今の菅直人首相が何を言っても国民の耳には届かないだろう。

菅首相が中立的な判断をしていないことは、静岡県御前崎市の浜岡原発への停止要請を見てもわかる。浜岡原発は国の耐震基準を満たしているし、保安院は「浜岡原発は津波対策がとれている」と一応、安全確認をしていた。にもかかわらず、菅首相は「今後30年以内に87%の確率でマグニチュード8クラスの大地震が起きる」という理由で、急遽、中部電力に浜岡原発の停止要請を行った。

しかし、30年以内の発生確率が12%の場所と87%の場所で、どちらが先に直下型の巨大地震が起きるかは学者にもわからない。そもそも近い将来に東海大地震がやってくるという警告自体、50年も前から学者によってなされているわけで、電力需要や地元感情、補償問題などの議論をすっ飛ばして急遽、浜岡原発だけを止める根拠としてはきわめて希薄だ。

政府、安全委、保安院という原子力行政の当局者がいずれも信頼性ゼロというのが、この原発再稼働問題を難しくしている。

本来なら福島の事故を総括し、あらゆる情報を開示、同様の問題点がないかどうか、すべての原子炉で追加的なストレステスト(耐久検査)を実施・確認すべきだ。さらに一定の時間的な猶予を与えて対策を施したうえで、保安院が現場を検証し、満足できる結果ならそれを住民に説明して再稼働を承認する―こうした手順を踏まなければ、住民や世論の納得は得られない。失敗学で知られる畑村洋太郎・東大名誉教授を委員長とした事故調査・検証委員会も設置されたが、最終報告は来夏の予定。来春までに原発の再稼働、という緊急事態にはとても間に合わない。