このように今回の原発事故では、誰も予期しえないことが次々と起こった。仮に非常用電源が確保できたとしても燃料タンクが流されたり、非常用電源が立ち上がらなかった場合に備えて外部電源車をスタンバイさせても、それが津波に持っていかれる可能性があったり、せっかく外部電源車が動いても電源プラグが(GEが米国仕様のままにしていたので)合わずに使えなかったり。神様が意地悪しているとしか思えないくらい不幸の連続だったのである。

しかし、事故原因を徹底的に調査・分析して、対策を打てば原子炉は飛躍的に安全になる。すでにEUは、年末までに欧州全域の原発に対し福島の教訓を盛り込んだストレステストを実施することに決定した。一方、被災の当事国である日本はまだ福島の教訓をまとめ切れていない。このスピード感の違いが問題なのだ。日本政府の信頼は地に落ちているし、このままいけば原発の再起動が「普天間化」することは避けられない。すなわち国が安全だと言っていくら懇願しても地元が首を縦に振らない。一歩も前に進めない、という膠着状態に陥る。

5月にフランスのドービルで開かれたG8の首脳会議では、原子炉の安全基準とストレステストを世界共通のものにしようという合意が得られた。私は原発の安全基準を策定し、ストレステストを実施するための国際的な監査機構を設立すべきではないかと考えている。具体的には、金融危機に陥った国の救済に世界銀行やIMF(国際通貨基金)が乗り出してくるように、国家主権を乗り越えて原子炉のストレステストを実施、安全性を評価して、原子炉のオペレーションにお墨付きを与える。いざ事故が起きたらその組織から解決部隊が派遣されてくる。そんなイメージの国際組織である。

そういう国際機関があれば、信頼を失った日本政府や安全委、保安院に代わって膠着した原子炉の再稼働問題を動かしうる。喫緊の現実的な対応策としては、IAEA(国際原子力機関)でストレステストの世界標準をつくり、それに従って原発をチェックする海外の専門家部隊を組織する。そして最初に日本の54機の安全性を確認してもらうのだ。将来的には、IAEAの仕事は核兵器の開発防止よりも、こちらがメーンになってくるだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成)