契約者が増えた場合、快適な速度を保てるのかは未知数

不安材料はまだある。

「自前回線の範囲を拡大するための基地局設置は計画以上のペースで進んでいるものの、まだまだ数が足りない。また、今のところ楽天モバイル回線の通信速度は快適と言えるレベルにありますが、まだ契約者数が少ないからこそ実現できている可能性もあります。今後ユーザーが増えた際、同じ速度を保てるかは未知数と言わざるを得ません」

そんな中にあって、契約者を大量獲得する起爆剤にしたいのが、5Gサービス開始(6月開始の予定が約3カ月の延期に)だ。

「当然、対応端末を出してくるでしょうし、他キャリアにない5G関連サービスを展開できれば、状況は一変するかもしれません。とはいえ、最初から画期的なことをやれるはずはないので、形勢逆転とまでは……」

写真=時事通信フォト
携帯電話事業についての記者発表会で、質問を聞く楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と楽天モバイルの山田善久社長=2019年9月6日、東京都世田谷区

とまあ、コロナ禍の影響がなくてもいろいろと前途多難なのだが、さらに楽天モバイルの三木谷浩史会長は何を思ったか、グループ本体の楽天で4月20日から、新型コロナウイルスPCR検査キットの法人向け販売を始めたのである。

楽天PCR検査キットはゴミだった

他国に比べてPCR検査実施数の少なさが指摘されている中、企業が社員を自宅待機させるかなどを判断する際の参考にできるキットの提供は、大英断に見えた。しかしこのキットでの判定の精度は低く、罹患りかんしていないのに罹患していると判定されたり、罹患しているのに罹患していないと判定されたりする割合が高い。前者の場合は正確な検査を希望する人々が病院に殺到して医療崩壊を招きかねず、後者の場合は自覚のない罹患者がウイルスをばらまいてしまう。

さらに、検査のためのサンプル採取には綿棒を鼻のかなり奥まで突っ込む必要があり、素人が自分で採取を行うのはまず不可能なので、正確な検査はそもそも期待できないという。こうした懸念から、楽天が発売している検査キットには、医療従事者を中心に続々と疑問、非難の声が上がった。なぜ三木谷氏は突然、そんないわくつきの商品に飛びついてしまったのだろう。

「日本屈指の経営者として、現在のような有事の中、国のために何かしなければという使命感があったのは間違いないと思います。しかもキットの製造元は、自身が社外取締役を務めている会社。だから事前に厳しい精査もせず、大丈夫だと信じ込んでしまったのでしょう。ところがその会社の前社長は、一部メディアで学歴詐称疑惑などが取りざたされているわけですが……。やはり企業トップたる者、自分が精通している領域でない分野へ軽々に手を出すべきではないということです」