骨髄炎をよく見かけるのは、ブリッジをしている土台の歯です。抜歯をすると入れ歯にしなくてはいけなくなるので、強い炎症が起きているのにもかかわらず、抜歯を引き延ばしてしまう。歯科医が骨髄炎のリスクについて説明しても、なかなか理解してくれず粘ってしまうんです。気まずくなってしばらく来ずに、数カ月から数年間我慢し続け、グラグラになって腫れや痛みに耐えられなくなってから飛んで来る。そこでやっと抜歯に至るんですね。

体は抜いてくれというサインを出している

通常の抜歯と違うのは、通常なら抜歯後はそのまま治癒に向かうのですが、骨髄炎になってしまうと抜歯した穴から膿が出続けてしまい、いつまでたっても痛みが改善されないんです。ここまで進むと細菌が骨まで達して感染しているため、抜歯では治りません。

ちなみに骨髄炎にかかっているかどうかは、抜歯後すぐにわかるわけではありません。抜歯後の翌週ぐらいに、通常なら止まるはずの膿が止まらないなら骨髄炎の可能性があります。初期だとレントゲンにも映りません。虫歯の痛みか、骨髄炎の痛みかは、本人も判別できないと思います。

抜くべきときに抜かず、粘り続けた結果、骨髄炎になるというのはありえます。抜きたくないお気持ちはわかりますが、痛みや腫れが落ち着くと、抜くようお勧めしても耳を傾けてもらえません。レントゲンを見た瞬間に「いま抜かなきゃだめだ」というケースもあるんですが、患者さんが嫌だと言えば、我々は抜けません。だから我々も噛み合わせを調整したりして、炎症の悪化を先送りする治療をするんですが、果たしてそれが正しいのかどうか。患者さんの気持ちに寄り添う一方で、体は抜いてくれというサインを出している。難しいところです。

最終的には患者さん本人の自覚以外にありません。歯科医も信頼を築くために、段階を踏んで説得するしかないのです。患者さんが来るたびに「次はちょっと腫れますよ」「次はグラグラしてきますよ」と伝える。その通りになると、歯科医と患者さんの間で信頼関係ができてくる。最終的に「先生、じゃあ抜いてください」と本人が納得するに至って、ようやく抜けるんです。

歯科医の選び方についても触れておきましょう。できれば「現状がどうなっているのか」「これからどういう治療方針で進めていくか」をきちんと説明する先生がいいです。歯を抜くにしても「なぜ抜くのか」「どこがだめなのか」「抜かないとこの先どうなるのか」など、言いにくいことも順序立ててわかりやすく説明してくれる先生。

ただ、「座学は素晴らしいけど腕がイマイチ」という先生も残念ながらいます。腕を見分けるのは患者さんでは難しいですが、何か納得できない治療があれば、ほかの歯科医に移ればいいと思います。とにかく早期発見、早期治療がマストです。そのためには小さな違和感を見逃さないこと。違和感は体の正直な反応なので、放っておいたり我慢していると繰り返し出て、そのたびに悪くなっていきます。痛みがなくとも、少し水が沁みる、歯が疼く、歯が浮くなどを感じたら、とにかく歯科に行ってください。そうすれば、治療は思いのほか早く終わりますよ。

(構成=篠原克周 撮影=石橋素幸)
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