ビジネスとテクノロジーの両方に強い人がいい

アメリカやイスラエルでは、数多くのスタートアップがイノベーションを生んでいるが、それは、生まれるスタートアップの数が多い、つまり分母が大きいからであって、決して「スタートアップ=イノベーティブ」というわけではない。

スタートアップとは、そもそも不確定要素から成り立っているものなので、たくさんのスタートアップを実際に見て、自分なりの基準を身につけたり、自分自身で起業した経験を持つことが求められるのだ。「わからないものは判断できない」、と決めてかからず、何とか見極めるヒントを手に入れようと努力しなくてはならない。

アビームコンサルティングの坂口氏も「いいスタートアップを見つけるのは非常に大変で、目利きが難しい」と語る。前述の通り、イスラエルのスタートアップ業界ではネットワークがモノを言うので、現地にネットワークを持ち、日本企業との縁を取り持った経験のあるインキュベーターやコンサルタントの力を上手に利用するのも一つの手だろう。

スピード感を持って交渉を進めるためには、ビジネスとテクノロジーの両方を理解することが求められる。と言っても、そもそもテクノロジーの知識を持ち、英語で交渉ができる人材が日本には少ないので、ビジネスがわかる人とテクノロジーがわかる人をチームにして、チャンピオンの役割を担ってもらうのもよいだろう。

「何としても成功させる」現場の熱意が問われる

チャンピオンには決定権を持たせないと、スピード感を持った対応はできない。質問をするだけ、話を聞くだけで、打ち合わせの場で判断や意思決定ができない「子どもの使い」のような担当者では、スタートアップ側も日本企業の「本気度」を疑うだろう。結局、交渉プロセス全体が遅延してそっぽを向かれてしまったり、意思決定の速い欧米企業に先を越されてしまう。

ここで力を持つのは、「このコラボレーションを何としても成功させる」という強い意志と「熱意」(パッション)だ。

ミリオンステップスの井口氏は、同社が関わった事例のうち、協業がうまくいっているケースの共通点について、「すべてのケースがユニークなので、なかなか“これ”という共通点を挙げるのは難しいが、実務レベルで熱意を持った人がカギになるのではないか」と語っているし、エイニオの寺田彼日氏も「交渉には時間も手間もかかるので、上から言われて嫌々やっているようだと続かない。やはり現場の担当者の熱意は必要最低限の条件だろう」と述べている。

先方との交渉だけでなく、自社内で必要な情報やリソースを集め、手続きを踏んでいくには、「なぜこの提携が自社に必要なのか」をさまざまな関係者に、根気よく説明する必要がある。

仕事を成し遂げるのに必要な人材の条件として、「ウィル」(意志)と「スキル」の2つが挙げられることが多いが、技術の知識、契約に関する経験などのスキルだけではなく、最後は「何としてもプロジェクトを実現する」、というウィルが決め手になる。