自分の行動や人生をコントロールしたいという欲求がある
【その4】人は「現在の欲望」には勝てない
今の快楽と未来の結果を天秤にかけた場合、人はどうしても、現在の欲望には勝てない。未来の大きな利益の可能性よりも、目の前にある小さな利益の現実を重視する「現在バイアス」と言われるもので、ダイエットや断酒がなかなかうまくいかないのと同じロジックだ。
【その5】人には自分自身の行動や人生をコントロールしたいという欲求がある
なにかしらの制約を受けることに、人は大きな抵抗を覚える。自分自身の行動や人生をコントロールしたいという欲求は根源的で強い。だから、「たとえ自分が感染しても、他者に迷惑はかからないのではないか。もし迷惑をかけても自分が責任をとればいい」などと考えてしまう。
人々を「行動変容」させるにはエビデンスが必要だ
それでは、「不要不急の外出自粛」や「ソーシャルディスタンス」について、多くの人に納得してもらい、行動を変えてもらうにはどうすればいいのか。
ポイントとなるのが、単なる情報発信ではなく、脳科学や心理学、行動経済学など、人の行動変容に結びつく「戦略的コミュニケーション」だ。アカデミックに実証されたエビデンスのある「人の動かし方」の知見を活用するのだ。
海外には、今回の新型コロナウイルスをめぐる行動変容や説得の方法について、すでに多くの学術的研究が発表されている。
一例を挙げると、感染予防のために「どうやったら顔を触らないでいられるか」ということまで真剣に分析されている。オーストラリアの調査では、被験者は実に1時間に平均23回、顔を触るという結果が出た。
このトピックについて40年以上、専門的に研究してきたネバダ大学の教授によれば(※)、紙でも、スマホでもいいので、何回触ったかを数え、記録すると、その回数が激減することが分かった。
※How to Stop Touching Your Face | Psychology Today
人々の属性などによって、どのように行動に違いがあるのかなどについて知っておくことも大切だ。アメリカのミシガン州の調査(※)では、男性より女性のほうがはるかに、人との距離をとるように心がけていることがわかっている。
また、民主党支持者よりも共和党支持者のほうが、この新型ウイルスを心配していない、という結果(※)も出ている。こうした性別や年代別などの属性や思考による行動の違いも理解したうえで、きめ細かく情報発信をしていく必要もあるだろう。
※Afraid of Coronavirus? That Might Say Something About Your Politics