国際ニュースに関心の薄い日本人

【三宅】日本人はどうも表面的なところで安心してしまうという印象があります。

【ロバートソン】そうですね。たとえば、先ほどカンボジアの話をしましたが、カンボジアやミャンマーのコロナ感染の状況について日本語で書かれた記事は当初ほとんどありませんでした。「ミャンマー、コロナウイルス」で検索をかけても記事が出てこないのです。ブログレベルの記事は別として、日本の大手メディアはまず取り上げません。

【三宅】なぜですか?

【ロバートソン】日本人が海外事情に興味を示さないからだと思います。「日本人は感染したのか?」「ウイルスは日本に入って来ているのか?」といった話は視聴率が取れるけど、日本の外の世界で起こっていることには関心が薄い。その結果、日本では海外の情報が断片的にしか翻訳されないという状態が長年続いています。

【三宅】たしかにミャンマーのニュースなど、日本にはほとんど入ってきませんね。

【ロバートソン】取材が困難な国ですからなおさらです。ところが『ニューヨークタイムズ』を読むと、「ミャンマーでは感染者は確認されていないが、有名な僧侶が公式アナウンスで『舌の上に胡椒を7粒乗せておけば感染しない』と発言した」という記事が出ています。「同国がそれくらいの科学水準だとすると、すでに感染者は蔓延しているかもしれない」、という含みがある記事です。

【三宅】そのことは日本では報道されない?

【ロバートソン】されません。でも私としては「日本人も知るべきだ」と思うから、スイッチが入って1日2、3回、カンボジアやミャンマー、インドネシア、ラオスあたりの記事やデータを探しにいきます。

そうした報道に接していれば、少し冷静に状況判断ができますよね。「あ、これはもう広がっちゃったな」と心の準備ができるので、「屋形船で感染」と聞いても「まあ、そうだろうね」と言える。しかし、日本語のニュースしか見ていない人は「日本には来ていないと言っていたじゃないか!」とパニックになる。この違いはありますね。

【三宅】非常に貴重なご指摘です。

【ロバートソン】私は「コメンテーター」という仕事の役目は、セカンドオピニオンとなる素材を提供することだと思っています。

たとえば、「中国人の入国を止めるべきか」といった議論をしている人たちがいたら、「カンボジアやインドネシア、ラオス、ミャンマーに渡航した日本人が発症しないまま、すでに感染している可能性が高いので、今さら中国ルートを封鎖する水際作戦は成り立たないのではないか」というセカンドオピニオンを言うようなことです。

もちろんそのままダイレクトに言うと、テレビの現場では煙たがられるので、日本の流儀を尊重しつつ、「日本の水際作戦は一定の効果が見られると思いますが、その水際作戦さえしていない国々があるため、そこが懸念されます」くらいの言い方に抑えますが。

みんなが使わない参考書で東大に合格

【三宅】モーリーさんが物事を複眼的に捉えるようになったきっかけはあるのでしょうか?

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【ロバートソン】アメリカの中高で経験したディベートから学んだものです。自分の支持する仮説がどれだけ正しいと思っても、予期せぬところから撃破されてしまうのがディベートです。それを経験して以来、どれだけ権威のある人物が言うことであっても、「ひとつの仮説に頼ると、その仮説が覆されたときに危険である」と考えるようになりました。

【三宅】なるほど。

【ロバートソン】東大の受験勉強でもセカンドオピニオンを探しにいきました。当時の友人はみな「傾向と対策」という参考書を使っていたので、私はあえて小さな出版社のマイナーな参考書を選んだのです。

【三宅】少し勇気がいりますよね。

【ロバートソン】「傾向と対策」は、問題だけではなく解説部分までも難解で、正直私には向いていないと思っていたのです。問題が解けるようになることが目的なら、解説部分はわかりやすく書いてあってもいいわけですよね。結果的に本番では私が選んだ参考書から問題が多く出題されていました。受験生があまりに「傾向と対策」ばかり勉強するから、出題者の先生がマイナー路線にシフトしたのでしょう。

ゴールに到達するルートがひとつしか見えなかったら、「きっと裏道があるはずだ」と考える。これが私の習慣です。

撮影=原 貴彦
国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏
(構成=郷 和貴)
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