信用不安から実体経済が痛んだリーマンショック

PBRが0.8台に低下したあたりから、わが国の株価は不安定な動きをしながら徐々に持ち直しの兆しを示した。一部の市場参加者は、先行きの展開を警戒しつつも、過去のPBRの推移をもとに株価に割安感のシグナルが出はじめたと考え徐々に株を買い戻した。

リーマンショック後、日経平均株価のPBRは1.00を下回った。2009年3月上旬にはPBRが0.8台前半まで低下した。ほぼ同じタイミングで、日経平均株価も最安値を付けた。

そうした経験則にもとづいて、3月中旬から下旬にかけて、わが国の株式市場全体で株価が割安に放置されていると考え、株式に資金を振り向ける市場参加者が増えたと考えられる。この見方は、3月中旬以降の米国株の反発などをもたらした一因と考えられる。

PBRは株価の割安、割高を考える尺度の1つではある。それをもとにするなら、“これまでの状況に変化があるか否か”を冷静に考えなければならない。リーマンショックの際、金融システム不安を発端に、世界全体で株価、債券などの価格が急速に下落し、信用不安が高まった。

その結果、実体経済が痛み、生産、消費などが落ち込んだ。企業の保有する資産価値も引き下げられた。そうした状況が現れた上で2009年3月上旬、世界全体で株価がリーマンショック後の安値を付けた。

今、株価は本当に割安なのか

一方、今回の新型コロナウイルスの影響を考えると、金融市場よりも先に実体経済が痛みはじめている。欧米の感染状況は深刻化し、世界各国で企業業績の悪化懸念は高まっている。それにより企業が保有する資産の評価価額は引き下げられる可能性がある。その際の株価の水準にもよるが、状況によってPBRにさらなる下押し圧力がかかる展開は排除できない。言い換えれば、過去のパターンにもとづいた投資の判断が適切か否か、不確実性は高い。

3月中旬の時点で、PBRが0.8台をつけた日経平均株価を割安と判断することは難しい。見方を変えれば、先々の経済環境を楽観する市場参加者はいまだに多いといえるだろう。

今後の展開を考えたときに重要なことは、いつ、感染が収束するかだ。それには、ワクチンの開発が欠かせない。開発までの時間を考慮すると、当面の世界経済には下押し圧力がかかりやすいといえる。

すでに、米国では失業率が20%、あるいはそれ以上に達するとの警戒が出ている。米国の個人消費が近年の世界経済を支えてきた。米国の雇用環境の悪化は、世界全体にとって大きなリスクだ。その影響がどの程度に達するかは予想がかなり難しい。さらに、人の移動が寸断されたことにより、中国経済の減速は避けられない。欧州地域ではマイナス成長が2四半期超続く、本格的な景気後退のリスクが高まっている。