「2020年元旦に神戸から羽田に向けて臨時便を出せないか」
打診があったのは、2019年12月24日(火)の午後だった。
2020年元旦に神戸から羽田に向けて臨時便を出せないか、という話が降りてきた。Jリーグのヴィッセル神戸が、週末の12月21日(土)に天皇杯の準決勝で勝ち、元旦に東京の新国立競技場で行われる決勝戦に出る。これを受けての臨時便だ。
ヴィッセル神戸のオフィシャルスポンサーであるスカイマークが保有するヴィッセルジェットを飛ばそうというのだ。だが、客室乗務員のフライトスケジュールは前月の25日に確定して通知することになっている。
臨時便の打診を受けた24日(火)は、500人の客室乗務員について8割程度のスケジュールを組み終わり、微調整に入った段階だった。年始にかかるため、特に元旦の勤務者の顔ぶれは確定させていた。
「でも、調整ができないわけではありません」
突然降ってきた話をどう受け止めたのか、石田が話してくれた。
「元旦に神戸から東京まで応援に行く人がどれだけいるのか」
「天候不順による運休、あるいは遅延によるスケジュールの見直しなど、僕らは日々思わぬ変更に対応しながら調整をしていますので、元旦の調整ができないわけではありません。実際、15分ほどで3つほど、こうすればできるな、という案が浮かびました。ただ……」
石田は言いよどんだ。石田は2つの違和感を覚えたという。
「元旦の便が177席も売れるのか、というのが最初に思ったことです。いくら決勝戦だからって、元旦にわざわざ飛行機に乗って神戸から東京まで応援に行く人がどれだけいるんだろう、と思いました」
そしてもうひとつの違和感、それは臨時便のきっかけが会長である佐山展生のツイッターだったことだ。佐山のツイッターのフォロワーは2万5000人。11月、ヴィッセル神戸ファンのフォロワーが「天皇杯の決勝に進むことになったら、スカイマークに臨時便出してほしい」とツイートした。
そして6週間後の12月21日(土)、ヴィッセル神戸は清水エスパルスを3対1で下し、元旦の決勝戦出場が決まった。ひらめいた佐山が、毎週定例の経営戦略会議で臨時便の運航を提案したのは、翌週12月24日(火)。
元旦まで1週間しかない。「売れるのか」「人員は確保できるのか」と経営会議では反対意見が大半を占めた。案は保留のまま、各部門への打診と検討が始まった。石田が打診を受けたのはこの日の午後。社内ではまだ「検討」の段階だった。