“花電車芸人”はいまや十指に満たない

そのうちにショーは過激化していき、性器を見せるようになる。それも当たり前のようになると、劇場の経営者やストリッパーたちは、次から次へと新たなショーを生み出していった。ステージ上でSMを披露したり、ポニーや犬と交わる獣姦ショーを催したり、果てはじゃんけんでストリッパーに勝った客とステージでセックスをしたりする、本番まな板ショーまで行われるようになった。ストリップ劇場は、女を買うことができる売春施設そのものといってよい状況になっていったのだ。

八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)

2000年代に入り、警察からそのような状況にストップがかかったこと、また女の裸がインターネットなどで手軽に見られるようになったことから、ストリップ劇場から客足が遠のくようになり、劇場は数を減らしていった。

ストリップ業界が浮き沈みする中、ずっと変わらない芸を披露し続けるストリッパーたちがいる。その芸は花電車といい、それを披露する芸人を花電車芸人という。

花電車とは、祭りなどで利用される客を乗せない電車を意味する。そこから派生して、遊廓で働いていた娼妓などが、本来の仕事であるセックスではなく女性器を使って芸をした(つまり「男を乗せない」)ことを、花電車芸と呼ぶようになった。

現在、日本で花電車芸を披露している者は、十指にも満たない。もしかしたら、ストリップ劇場が消える前に、彼女たちはいなくなってしまうかもしれない。花電車芸人は、極めて貴重な存在なのである。

その貴重な花電車芸人のひとりに、ファイヤーヨーコがいる。彼女はアソコから火を噴くことを得意としていた。

海外で“道場破り”に挑戦する夢

ナニワミュージックでヨーコを初めて取材をしてから約2年が過ぎた頃のことだ。夢物語と思っていたものが動きはじめた。花電車芸を行っている海外のストリップ劇場を訪ねて、お互いの芸を披露しあうのだ。

これまでにもさまざまな雑誌や新聞、テレビなどにも企画を売り込んできたが、誰も首を縦に振る者はいなかったと、その話をした大阪のメキシコ料理店で彼女は言っていた。

企画自体は面白いが、海外に行ってみなければ、果たして道場破りが成功するかどうかもわからない。そもそも芸の性格上、どうしても性器を晒さなければならない。それは、日本だけでなく海外でも違法行為である。それゆえに、最悪の場合は逮捕される可能性もある。マスコミを覆っている事なかれ主義からしてみれば、ゴーサインなど出るはずがないのだ。