冗談半分の話が第三者を動かした

その日、私とヨーコが道場破り話で盛り上がっている傍らには、日笠さんという実話誌の編集者がいた。このご時世に一風変わった男で、ストリップの取材をしたいと私がお願いした際も、「やりましょう」と背中を押すだけでなく、きちんと取材費の面倒まで見てくれていた。その彼からしてみても、さすがにヨーコの道場破りは理解の範囲を超えていたようだった。ぽかんとした表情でひとりコーラを飲みながら、「面白いですね。企画を出してみます」と言ってはくれたが、顔にはありありと困惑が滲み出ていた。

ところがある日、日笠さんから一本の電話がかかってきた。

「あの企画なんですけど、通りました」

一瞬、企画を振った本人が何のことだかわからなかった。何か企画を出していたかと考えてしまったほどだった。出版不況のご時世に、取材費を引っ張ってくるのは無理だと半ば諦めていたし、こんなことを言っては失礼だが、日笠さんがそれほど興味を持っているようにも思えなかったのだ。

「八木澤さんとヨーコさんの盛り上がりを見ていたら、少しでもお役に立ちたいなと思ったんですよ」

冗談半分の気持ちで話していたことが第三者を動かすこととなった。電話を切ると、手ぶらでは帰って来ることはできないという思いが込み上げてきて、身震いがした。

やるなら「バンコク」がいいと考えた理由

私が同行したところで、立会人としてカメラを向けることぐらいしかやれることはない。強いてほかに挙げれば、普通の人よりは少しばかり海外の物騒な場所を歩いてきた経験があるため、一筋なわではいかない相手との交渉も、真似事であればできるだろう。マネージャーのような役割はできるのではないか。

海外で花電車芸の取材をするうえでやりやすい場所はどこか。ヨーコと私が一致したのは、タイの首都バンコクだった。花電車芸は、中国ではクラブなどの余興として行われているそうで、あまり開かれたものではない。それに比べ、バンコクでは海外からの観光客向けのバーなどで半ば公然と行われているという。とはいえ、バンコクへは幾度となく足を運んでいるものの、私は花電車芸を見たことがなかった。

私はすぐにバンコク在住の友人に連絡を取り、取材の下準備に入った。やると決まったものの、バンコクのストリップを演じているバーにコネクションがあるわけではなかったので、当てはまったくなかった。