行政サービスの質と満足度が与党の得票率に直結

なぜここまで素早く動けるのか、筆者は台湾の政府関係者に聞いたところ、ひと言「政府の打ち出す政策と行政サービスの質が、そのまま選挙に響くから」というのが、彼の答えだった。

台湾は選挙の投票率が日本に比べ極めて高い(1月の総統選挙の投票率は74.9%)。このため一部の業界や団体・組織に便宜を図っているだけでは当選できない。中央政府や地方政府が提供する行政サービスの質と満足度が、そのまま得票率につながるのだ。したがって、市民の不満の声をすぐに反映させ、全員に平等で満足のいくサービスを提供することが、政権与党の最大の課題かつ役割となっている。

そうした相互の関係があるから、当局も感染拡大を防ぐために思い切った政策を次々と打ち出せるし、市民もそれに協力する。多少の不便や不具合についても、「国民を守るため」という目的が共有されているから、文句を言う人はあまり出ない。

クルーズ船からの帰国チャーター便の「紙おむつ」対応

横浜港に停泊していたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号の台湾人乗客が、チャーター機で帰台したときの対応も徹底していた。台湾から派遣された医師1名を含む一行20名は、台湾の保険当局の指示により、羽田空港で防護服とマスクと特製のフェースガード、さらに大人用の紙おむつを装着させられた。フライト中の感染防止のため、トイレを含む機内での移動を制限するための措置だった。

食事や飲み物のサービスもない4時間のフライトの後は、1人1台の救急車で隔離施設に運ばれ、そこで14日間の隔離処置を受けた。全員が下船前の検査で陰性と判定されていたにもかかわらず、これだけの厳重な対応である。台湾当局の新型コロナウイルスへの警戒感と国民を絶対に守るという覚悟がにじみ出ている。国民を守る姿勢に、「過剰」や「やりすぎ」はない。台湾政府の強さと信念を感じる。