同時に、ボタン1つで全世界に発信されていく利点もあります。なぜなら、今、映画には、見るべき人のところにちゃんと届いていかないようなハンディキャップが存在してしまっている。はじめに、配給会社の経済力。次に、マーケット力、宣伝力と繋がっていく。その一連の流れにおいて、日本映画界は全体的に勢いを失ってしまっています。いい作品さえ作ればちゃんと届くんだなんていうことは、今やもう、夢のまた夢。だからこそ、一瞬で世界に広がっていく動画配信は、いい作品が見るべき人に届くための“方舟はこぶね”のような価値があると思います。

『カメラを止めるな!』の大ヒット

近年の事例で注目しているのは、『カメラを止めるな!』の大ヒットです。この作品は予算300万円からスタートし、2017年11月から都内で単独劇場公開したところ、話題が話題を呼んで世に広まった。いち早く可能性を見出した東宝が『カメラを止めるな!』をグループの映画館で上映し、圧倒的な興行収入を挙げ、18年を代表する話題作となった。

重要なのは東宝という企業に「自分たちが変わらないと業界がダメになる」という意識があったことと、結果を出せたことだと私は考えます。現場の意見を理解し「やってみろ」と言えるトップがいた。そして、やる以上は当たるように持っていく。この成功は、作品自体の実力というよりも、小さなインディーズ映画の可能性を信じて、東宝がマーケットに出して数字を上げてみようとしたことにあると見ています。1つの映画の番狂わせ的な奇跡というものに対しての面白味を、映画業界に対する危機感と愛情を持って煽ったということです。

この大ヒットを契機に、日本の映画業界全体に、マイナーな映画でもいいものは届けていこうよ、というムーブメントが生まれ始めた。伝統のある業界や大企業ではトップに対する忖度が働いて閉塞感が出がちですが、今の日本映画界には柔軟性が重要なんです。

『カメラを止めるな!』に限らず、東宝のシネコンではその融通性を最大活用し、マイナーな映画でもどんどん上映するようになっています。入場料金を取っても失礼ではないというクオリティを持っていれば、東宝は受け入れますという姿勢を取っている。松竹も、グループの映画館であるピカデリーで独自の推薦映画を選ぶブランドをつくってみたり、マイナーな映画を上映するなど、柔軟になってきていますよね。

配給会社が責任感というものを持ち、その中にマイナーな映画だって育ててみせるという思いを持ってくれるのであれば、日本映画界の将来は明るいんじゃないかと僕は思っています。

(構成=吉田彩乃 撮影=熊谷武二 写真=京都国際映画祭)
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